細い、の部類に入る麗の体、その胸元に広がる赤い染み。
青白い顔、おそらく息はもうないのだろう、と私は推測する。
薄暗い林。
生えている木々が煙のように霧散して、ノイズが聞こえた。
『あら、身内を撃ったのね?ステキ!!
殺されたのは立川麗子かしら?
せっかくここまで生き延びたのに、残念であります。
残るは三人!
さぁ、進め!進め!進め!
扉は左に!』
白い空間に、突如扉が現れる。
姿が見えなかった高柳と榊が、ぼんやりとした様子で近くに立っていた。
「・・・撃ったの、薫?」
榊が静かに聞くが、高柳をちらりと見てその問いは無効になった。
「・・・璃華。麗を、撃ったね?」
問いかけ調のそれは、断定。
なぜなら、彼女の握っているピストル、トリガーに指がかけられている上に、銃口からはまるで火縄銃を撃った後のように、細い煙が上がっている。
「生き残るために、撃ったの」
生気のない声は、機械めいている。
ピルトルをぽいと放り、彼女は一人で扉をくぐった。
向こうから声が聞こえる。
「早くして」と。
炎が目の前をちらつく。
熱いけれど、せかしてくる榊がひどくわずらわしかった。
先に行けば、とつぶやく自分の声は、さきほどの美影のような力の抜けた声。
目線は倒れている麗にくぎづけ。
あぁ、美影の気持ちがわかったような気がする。
「死ぬぞ?!」
右腕が引かれ、燃え盛る炎が麗を飲み込むのが視界のはしに映る。
「薫、しっかりしろ、まだ先がある」
先、ね。
大切な友人がすでに四人も死んでいるって言うのに。
「線香をもって、それぞれ扉に入れ。燃え尽きる前に出られたら、幸運」
高柳が読み上げた掲示板。
ついと視線を戻すと、美影が死んだときと同じような扉が三つ。
「なお、一緒に扉に入った場合は三人ともゲームオーバー。・・・あたしは真ん中行く。二人は絶対違う扉から入って」
燃え始めたばかりの線香を持った高柳が、古めかしいドアノブのついた扉を入る。
足音が遠ざかり、私と榊は取り残された。
「薫、どうする」
榊が心なしかいらだっている。
おそらく、高柳に対する怒りだと思われるが。
・・・そういえば、あいつさっき麗を撃ったんだっけ。
「左」
つぶやいて、線香を手に取る。
香りが、麗のそれと酷似していた。
彼女は時たま、朝に線香の香りをまとっている。
亡くなった親戚の方に線香をあげているのか、などと考えていたあのころは戻ってこない。
「わかった。気をつけて」
榊が線香を手にして、右の扉を入るのを見届けて、私は左の扉を入った。
「・・・榊こそ、気をつけて」
友人の無事を祈った。
「これ以上は」なんて、まるで美影みたいなことをつぶやいてみる。
ふ、と笑いが漏れた。
「美影と同じパターンじゃん、つまりこれ、私死亡フラグ?」
扉の先は、また扉。
ジブリの「千と千尋の神隠し」の、湯バーバの部屋へ行くシーンに似ている。
三つほど扉を過ぎて、四つ目。
顔に恐ろしいほどの熱を感じた。
鼓膜が裂けんばかりの轟音。
「ほら、やっぱり死亡フラグ」
暗転。
ガス爆発
(第5の犠牲者)
(蒲原薫)
(爆発死)
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