ギィ、と重い音を立てて扉が開く。
氷柱の落下がぴたりと止まり、私たちは固まった。
時計はまだ時間を指してはいない。
「・・・嘘、誰が」
高柳がつぶやいて、それから目を見開く。
小さく開いた口から、声は出ない。
何か、否定するように頭が横に揺れ、氷柱でさえぎられて私からは見えないその視線の先に、犠牲者がいるのだろうと、簡単に推測できた。
「ゆう、か」
搾り出された声。
あぁ、そうか。
私はぼんやりとした意識の中で考える。
菅平優香は死んだのか、と。
西山が犠牲になってから霧がかかったかのように、リアルから切り離されていた意識が急速に現実に引き寄せられる。
ザザッ、ザァ
ほら、また。
ノイズ混じりの声が聞こえて。
『第二の犠牲者は、菅平優香!
尊い犠牲なのであります。
さぁ、先へお進みください!
一つの扉は地獄行き。一つの扉はまたパーティー。
死にたくなくば、右へ!
死にたくば、左へ!!
あら、どうしよう、私は嘘つき!
仲間を失いたくなくば、左へ!
仲間を殺したくば、右へ!!
さぁ、進むのであります』
歓喜している。
膝が笑ってしまった高柳を榊が背負って、優香を視界から遠ざけようとしている。
「行くよ。・・・美影」
泣き出しそうな顔で笑った薫が私の腕を引っ張った。
・・・リアル。
ちらりと視界に入ってしまった優香の体は、この世の物と思えないほどの優美な固まり。
氷の上で、無残なほどにその赤は映えていた。
ふ、ラノベでもあるまいし。
なら、夢か?
薫に引っ張られて意思と関係なく進む足。
氷の世界が視界から消え、次に入ったのは小さな部屋だった。
「二つの扉、だね。これで嘘と本当の天使でもいたら完璧なのに」
薫が言っているのは、はい、か、いいえ、しか答えない二匹の天使の話だろうか。
「で、死にたくなかったら右、仲間を失いたくなかったら左、か」
麗が顔をゆがめる。
「矛盾してる」
「どうかな」
自然と声が出た。
「例えば右が生き残るための扉だったら。仲間を助ける代わりに左に入って、自らそれが危険な扉だと証明することになる」
「でも、あの声は『嘘』とも言ったよな」
榊が口を挟む。
うん、とうなずく薫と麗。
でもさ、いいじゃないか、もう。
「・・・くだらない、どうせ答えは見つからない。ばかばかしい、私はここから出てやる」
吐き捨てて、左の扉を開けた。
どうせ、西山もいないし。
きっと、一人ずつ死んでいくなら、いつ死んだってたいして変わらない。
「美影!・・・ばっかやろう」
榊の声がして。
オレンジに染まる視界。
「よりによって火あぶりかよ」
苦笑さえ、歪。
暗転。
分岐
(第三の犠牲者)
(篠崎美影)
(焼死)
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