ざ、ざぁ。
ノイズ交じりの声が歓喜している。
『犠牲者がでてしまった!
西山小百合、転落死。
でも、安心して。
彼女がトラップを解除してくれたのであります。
この先は安全!安全!
大広間にご招待します。
標識に沿って、歩くのであります!』
「・・・美影」
薫が美影を立ち上がらせる。
美影が西山さんと特別仲がよかったのは、周知の事実。
目の前で友人が死んでしまって、それを助けられなかったら。
想像してしまって、ぞっとした。
私だったら、立ち直れない。
「行こう」
歩こうとしない美影を、榊が背に負った。
アルファルファでよかったね。
なんて見当違いのことを考えながら、私たちは黙って廊下を進む。
示し合わせたわけではないが、みんなで身を寄せ合うように。
「標識」
小さく璃華が言った。
指差す先には、古ぼけた看板。
「大広間では、まれにつららが落下してきます。ご注意ください・・・死亡フラグ」
音読した薫が、吐き捨てるようにフラグ、と発音した。
「なお、廊下では後方にご注意ください」
立川さんがその看板の下に小さな字で書かれていた言葉を読み上げて、振り返った。
つられるようにして全員が振り返る。
「・・・うわ」
炎の海。
じわりじわりと広がっていくオレンジ色はさっきの狼と比べるとだいぶ恐怖は薄いが、後戻りはできないんだと再確認。
若干早足になって見えてきたのは大きな扉。
金色のドアノブが自動で下がり、スルリと二枚の木の板が分かれる。
『ようこそ。晩餐は始まったばかりであります。
ごゆっくりお楽しみあれ。
なお、この入り口は二度と開きませんが、耐熱性は万全です。』
ノイズ混じりの声。
・・・なんかより、その大広間は強烈だった。
氷の世界。
いすも、テーブルも、皿も、床も。
すべてが氷でできていて、半透明。
映える赤は、食事の色だ。
氷のボウルに盛られた野菜も、氷の皿のスープも、氷のカップのお茶も。
すべてが赤に染まっていて、うん、怖い。
全員が中に入ると、音もなく扉が閉まった。
「歩ける」
美影が榊に「離して」と声をかける。
いつも青白い顔色は氷にとけそうなほどさらに青い。
「氷で転んで骨折しないようにね」
「しねーよ・・・」
いつもの調子で茶化そうとした薫、努力は涙ぐましいが二人とも覇気がなさすぎてむしろ笑えるよ。
「上、気をつけて」
立川さんが見上げてそういった。
高い天井からは、中世の騎士が持っている槍みたいに大きくてとがった氷柱。
それも、無数に。
「あたし上見てるから、テーブルまで行こう」
「いや、私やるよ。視力には自信あるし」
「二人でやってもらった方が安心なんだけど?」
璃華に続いて薫が申し出て、立川さんがまとめた。
上を注視している二人をエスコートしながらテーブルを覗き込むと、メッセージカードがおかれていた。
「晩餐は時計が真夜中を指したとき、お開きとなります。だとさ」
榊が読み上げて、時計を確認した。
「あと30分・・・たいしたことなさそうだけど精神的にくるね、これは」
いつ落下してくるかわからない氷柱におびえながら30分ここにいなければならないなんて。
「あ、なお、犠牲者が出れば自動的にお開きになります、って付け足されてる」
私が見つけた小さな文字を音読すると、美影が顔をゆがめた。
「これ以上はもう」
「わかってるから」
ミシ。
「榊危ないっ!」
「左行け!!」
璃華と薫がほぼ同時に叫んで、間一髪榊が飛びのいたところに、2mはあろうかという氷柱が落下してきた。
砕けることなく、氷の床に10センチほど食い込んでとまっている。
「奇怪なオブジェだな」
危機一髪だったのに、榊は冷静に感想を述べた。
ハハハ、と乾いた笑い声をあげて、彼女は続ける。
「あと一瞬遅かったらこれに脳天直撃されてたってのに、ぜんぜん実感ないよ。こりゃ相当まいってる」
「麗、右!」
「わ、薫も右!」
「危なっ、ありが・・って璃華左!!」
「さ、サンキュー」
落下の感覚が狭くなってくる。
時計をちらと確認したが、あと20分はある。
「美影前!・・・榊左!」
「薫前!あぁもう、各自確認してっ」
どうしよう、私視力自信ないんだけど。
見上げたら、一面の銀。
「・・・あ」
死亡フラグ?
暗転。
大広間
(第二の犠牲者)
(菅平優香)
(刺死)
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