ふと気がつくと、そこは大きな屋敷の前だった。
周りはうっそうとした林で、空を見上げると三日月がかかっている。
「不気味な洋館の、玄関前なう」
つぶやいてみたが、木立の隙間を風が通り抜ける音しか聞こえない。
そもそもこんな事をつぶやくようなキャラではない、私は。
カラスが鳴く。
ありがちなシーンだが、夜行性のカラスっていたかな、と考えたところで、周りに人間らしき塊が転がっているのが目に入った。
・・・死体?
うわ、と悲鳴を上げそうになって、それらが見慣れたメンツであるこに気がつく。
「美影じゃん・・・寝てんのか」
ひとつの人影の正体がわかったところで、数を数えると6個、いや6人。
「美影、榊、薫さん、麗さん、菅平さんと高柳さん」
うん、納得。
・・・・・・・・・・・・
「どこだよここ?!」
「知らないよ。私だって気づいたらここに立ってたんだよ!」
愚問だな、榊くん。
一応全員を起こした後、美影女史にデコピンしてもらったので、夢ではないようだ。
ちなみに美影女史のデコピンはウルトラスーパー痛い。
そして普通に痛かった。
「トリックハウス・・?」
さすが、海外の取引先と英語で商談ができるだけはある。
立川麗子が、洋館の玄関アーチにかかれた、筆記体を読み取った。
感心感心。
「呼び鈴あるよ?押す?」
高柳璃華が目ざとくそれを見つけた。
「まー帰ろうにもここどこだよって感じだしねー」
菅平優香は眠いのか、口調がゆるい。
「んじゃ押すよー」
「どうぞ」
トリックハウス、という名前が若干気になるが、それ以外にどうしろというのだ。
こんな真夜中に。
高柳さんが押したボタンはガチ、と鈍い音を立てた。
スピーカーから、録音機越しのような、雑音の混じった声。
『ようこそ、トリックハウスへ!
君たちを心から歓迎するよ。
ここはトリックハウス、別名死の館。私のステージであります。
さぁ、中へ!裏切り者には十分ご注意を?
さぁ、中へ!トリックにも十分ご注意を?
さぁ、中へ!標識に注目!
生きるか死ぬかは君たち次第なのであります。
仲間を信じなさい?
仲間を裏切りなさい?
仲間を利用しなさい!!
タイムリミットは夜明けであります。
何人、生きているでしょーうか?
イッツ、ショーターイム!!』
わざとらしい抑揚のその声が途切れると同時に、洋館の扉がいやな音を立てて開いた。
あーいやだ、こういうの苦手なんだよね。
「・・・今の声、」
榊が何かつぶやくが、聞き返すと「いや、気のせいだ」と首を振った。
「どうする」
それまで黙って何か考えていた蒲原薫が、慎重につぶやいた。
「前には明らかに危ない屋敷。後ろには果てのない林・・・いや、森って言ってもさしつかえないけ、ど・・・・」
振り返って森を示した薫さんの顔が引きつる。
振り向いてみて、背筋が凍った。
「狼・・・」
「狼だ・・・」
赤い目をした狼。
ますますリアルから離れていく風景。
「いいから入れっ!!」
我に返った榊巴が叫ぶと同時に、金縛りが解け、目測3mの玄関へ全員が飛び込む。
最後に入った薫さんと菅平さんがバタンと扉を閉める。
ガリガリと引っかくような音が聞こえるが、とりあえずは安心だ。
完全な暗闇。・・・に、明かりがともる。
ロウソク立てのシャンデリアが揺れる天井。
たとえるなら、千葉と東京の境にある、あの遊園地の。
「ホーンテッドマンションかよ・・・」
それ。
再び、雑音まじりの声が聞こえた。
『前進するのであります。
第一のトリックは、この先に?この先に!』
「・・・行こうか」
意を決したのか、美影がつぶやく。
うん、とうなずいて、一歩を踏み出した瞬間、視界が反転。
驚いたようにこちらを見ている美影女史の顔が猛スピードで遠ざかり。
「西山ァァァァアアア!!!」
絶叫が聞こえたよ、なんで。
っていうかあれ、なんか私落ちて・・・
暗転。
トリックハウス
(第一の犠牲者)
(西山小百合)
(転落死)
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