27 | ナノ




 カグは、鞘走りの音をきいて、反射的にとびすさり、後ろにあった樹の幹に背をつけた。
 気配は5つ、6つ、いや7つ。
 短刀を抜いて身構えるカグを囲むように、追手は現れた。丘の上の大木を囲むように、追手は7人。全員が、いっせいにむしろを脱ぎ捨てる。
 ああ、その見覚えのある黒装束。
 紅い蝶だ。
 風が強くなる。梢がさらさらと鳴る。
 ぴんとはられた糸が切れたかのような、錯覚。
 そして、カグは勢いをつけて木陰を飛び出した。
 短刀を後ろにおよがせ、勢い良く、敵の一人を突く。それをはじき、カグの頭上をとびこえる敵。反射で敵を振り向いたカグは、振り下ろされた刀を短刀で受ける。火花が散るほどの衝撃。敵の刀も刃こぼれするが、こちらも無事ではいられない。ゆるく角度を変え、敵の刃を受けては流す。
 鋭い斬撃を、身体を回転させて流し、そのまま回って敵の背後につける。ほんの僅か、反応が遅れた敵の背から、刃を差し込んだ。
「一人ッ!」
 間髪を入れずに飛び込んでくる敵を、地に転がって避ける。その回転を利用して、さらに襲いかかる二人を避け、丘を転がり落ちる。見当をつけて身体を伸ばし、カグは腕を一閃、一度に3つの暗器を放った。
 それは、カグの死角、後ろから迫る敵に命中する。額、喉、胸に暗器をつきたてられた敵は、どうと崩れ、丘をさらに下まで転がり落ちた。
「二人ッ!」
 前から迫る敵の刃を避け、振り下ろされた瞬間に蹴りをおりまぜて、敵に攻撃の隙を与えない。攻撃は最大の防御。嵐のようなカグの動きに、敵は押されるばかりだ。
 蹴りをはなつカグの脚から、大きく後ろに飛んで逃れた敵は、油断なく重心をおとすカグの周りを囲んだ。誰が攻撃をしてくるのか分からない、一対多では確実な位置取り。
 カグは油断なく意識を研ぎすませる。敵のわずかな動きでも見逃せば、命取りだ。
 左後方からつっこんできた敵を振り向き、体全体で反転してその攻撃を受け流す。左右からの攻撃を逃がしながら、すこしずつ後退。そうして背を向けた方向から、もう一人。はさみ撃たれる形となったカグは、一人を蹴り飛ばし、短刀で地をえぐってもう一人の目をめがけて砂礫をあびせた。一瞬の攻撃の裂け目から、包囲を逃れて走るカグ。
 周りをかこまれて、多数の敵と一度に戦うのでは、さしものカグといえど勝ち目はうすい。一度その包囲網を逃れ、追ってくる敵と一人ずつ戦うことを選ぶ。
 丘の頂上、大木の元まで走りこんだカグは、そのまま勢いを殺さずに大木の幹に足をかけ、宙返りと同じ要領で、追ってきた敵を相手取った。唐突に上に現れたカグの短刀を防ごうと刀をかかげる敵に、上段から蹴りをはなったカグは、よろめいた敵に暗器をたたきこむ。
「三人ッ!」
 倒れた敵のすぐ後ろについていたもう一人は、転がった仲間に足をとられてたたらを踏む、そこに、すでに刃こぼれして限界を迎えたカグの短刀が飛ぶ。
「四人ッ!さらに」
 地に足をつけたカグの横合いから刀をふりかざす敵に、二本目最後の短刀を抜き、突く。しかしその付きは、敵の肩をぬけて空を裂いた。短刀に意識を集中させていた敵は、その勢いで頭突きをきめようとするカグになすすべもなく、後ろにふきとばされて、さらに暗器をくらう。
「五人目ッ!」
 次の敵は、カグの背後から刀を凪ぐようにして横にふるう。カグはそれを、腰を折って避け、上体をねじって敵と正面から対峙した。隙のない打撃をうち流し、短刀の刃こぼれが限界に近づく。カグはじりじりと後退しながら、目測で大木の幹に背をむけた。しかし、そこでカグの後ろから飛来する暗器。
「くそっ」
避けきれずに肩を斬り裂かれ、カグは目の前の敵から転がって逃れた。暗器を投げたのは、カグが倒したと思っていた男。自分の喉にささったカグの暗器を、ひっこぬいてカグに投げたのだ。カグは円を描くようにその男に走りより、残った暗器5本を一気に叩き込んだ。
そのまま正面から大木に走りより、思い切り上に跳ねて、追ってきた敵の刃を避ける。
勢い余って幹に深々と刀を突き刺した敵は、振り向くまもなく上から短刀を食らって絶命した。
「六人」
 もう一人は、と、幹に背をあずけて振り返るカグ。その正面に、他の者とは違う刀を持った男が、立っている。男の動きを見極めようと、重心をさげたカグの構えた短刀が、耳障りな音をたてて折れた。
 内心で舌打ちをして、カグは男を見る。しかし、男は得物を失ったカグに襲いかかっては来なかった。
 風に吹かれた黒雲が、さあっと太陽を覆い隠す。ぽつぽつと雨が降ってきた。
 男が、両手に持っていた刀を、一本づつ投げる。二本の放物線を描いて飛んだ刀は、それぞれカグのすぐそばに突き立った。
「使え」
 男の声が、遠くから聞こえた。カグは息を整えながら、横目に、投げられた刀を確認する。一本は、見事な装飾のなされた太刀。もう一本は、刀というには短く、短刀というには長い、言うなれば大脇差。カグは、男から視線を外さずに、大脇差を抜いた。
「やはり、か」
 男の声はからかいを含んでいる。
「その太刀が、天龍丸だ」
 男は、足元に転がっている仲間の死体から、刀を抜き取った。
「お前とは、一対一でやりたい。そう思える、久々の武人だよ、お前は」








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