11 | ナノ




 幸いなことに、カグが目をつけた近衛士達はみな快諾してくれた。カグを含めた8名の護衛と、皇子、スイという一行になる。護衛達はいずれも何らかの特技を持っている、かなりの手練だ。
 日が暮れれば店は閉まってしまう。カグとスイは厩で馬を借り、市へと繰り出した。スイはロバにしか乗ったことがなく、おっかなびっくり馬に揺られていたが、道のりの半分ほどから慣れてきたようで、降りる時には危なげのないしっかりた扱いになっていた。
「食料、水と油紙、火打石、あとは小刀と…防寒具も必要だな。予備の紐も三組ほど買っておこう。それと清潔なさらし布、薬草もひとそろい、丈夫な縄もいるな。何かあった時に役に立つ。それと何か記せる物を持っていたほうが便利かもな」
「カグさんっていつもそんな大荷物持ち歩いてたっけ」
「ああ、風呂敷に全部入ってた。そんな荷物って言っても…二人分なら大した量にはならないからな」
「へえ」
興味深そうに色々と聞いてくるスイと問答しながら、カグは値段の交渉をするしていく。
「あれ、防寒具7揃いでいいの」
カグが、ひざ下までの長さで、腕が動かしやすいように上部だけ二層構造になっているマントを買うと、スイがいぶかしげにきいた。
「ああ、私とマツリは持っているから。それに、この種類だとお前みたいに薄着の奴にはあわないんだ。お前にだけ違うのを買う」
自分だけ特別扱いされて、スイは気まずくなった。
「なんかごめん」
「気にするな。それに……いや、なんでもない」
「なに?気になるんだけど」
「ああ、……気を悪くしないで欲しいんだが」
「大丈夫だって」
カグはちらりとスイに目をやった。
「お前だけ違う防寒具をつけてもらうことで、万が一紅い蝶に襲撃された時にお前と皇子を見誤ってくれれば、って思っただけさ、悪いな」
カグはこともなげに言い、買った荷物を馬にのせて手綱をとった。
「行くぞ、次だ」

 カグが、値切って余った金子で、これまた値切りに値切って大量の焼き菓子を買った。売れ残った菓子をすべて買い占めたため、店主は快く負けてくれた。近衛士へのみやげらしい。
 馬を駆って宮へと戻った二人はそこで別れ、スイは与えられた部屋へ、カグは近衛士詰所へと戻った。

 近衛士詰所で、買った焼き菓子をふるまいながら、カグは7人の護衛と共に細々としたことを話し込んでいた。中にはサクも含まれており、皇国人は6人、一人は海上で生活する一族の者。
「トッカさんはスイと気が合いそうですね。あいつも水のそばで暮らしてる一族だから」
「そうかもしんねえな。まあだが、海と川はだいぶちげえからなあ」
豪快に笑うトッカは、肌の浅黒い、体格のいい男だ。人の良さそうな髭面で、笑うと白い歯が見える。
「しかしカグよぉ、お前、ずいぶんと変わったな」
「そいつぁ俺も思ってたぜ」
「なんつーか、丸くなったか?6年前なんか、俺らと話しててもずーっと無表情で、正直おっかなかったもんな」
好き放題言う男たちに、サクが笑いながら反論する。
「みんな、そんな言い方無いでしょ、カグがおっかないっていうのは私も思ってたけど」
「サク!」
カグがサクに軽くつかみかかり、一同は爆笑した。
「そんで、皇子サマの両脇を固めるのはお前と、」
皇国人の、きれいな顔をした若者がカグをさし、次に自分をさした。
「俺でいいんだな?」
カグが頷く。
「ああ。私も、ヨギも、近距離戦が得意だから。みんなもそれでいい?」
次々と賛同があがり、サクがため息をついた。
「ああ、私が槍なんか使わなければなあ。殿下のおそばなんて、めったにないのよ?それをこんな男なんかにゆずってやるなんて……」
「まあまあサク、お前なんかがおそばについたら、皇子サマが逆に危ねえってこったよ。聞けよカグ、この間ちょいと曲者と揉み合いになった時にな、」
「その話は!」
気のいい中年の近衛士の話を止めようと、あせって口をはさんだサクは、他の仲間にとりおさえられた。
「時にな、もちろん全部倒したんだが、こいつが振り回した槍の石突で仲間もひとりぶっ倒れたんだよ」
近衛士たちが大笑いするなか、顔を赤くしたサクが叫んだ。
「あれは避けられなかったアイツが悪いんじゃない!」
「そりゃそうだが、お前の槍さばきは雑過ぎんだよ!」
更に笑い声が高くなり、サクは顔をおおってうずくまった。
 部屋の真ん中で、頭に白いものが混じり始めた近衛士長が声をはりあげた。
「お前らうるせえぞ!早けりゃ明日発つんだろ、さっさと寝ろ!」
へい、とかほい、とか軽いのりの返事がいくつかあって、彼ら8人の近衛士は寝所にひきあげた。








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