2 | ナノ



 乱暴にゆすられて、皇子は目を覚ました。
「おい、起きろ。もう昼だぞ」
見慣れた近衛士の顔を確認して、マツリはもう一度掛け布をかぶろうとするが、
「いい加減にしろ」
というカグの一声と共に掛け布はマツリの手をはなれて消えた。
「……まだ寝たいんだけどな?」
甘えるようにいうが、カグは一つため息をついた後、皇子の頭に拳骨を降らせた。
「子供じゃないんだからそういうみっともないことはするな」
頭をおさえて非難のまなざしを向ける皇子に背をむけて、カグはさっさと荷物をまとめるために膝をついた。
 6つ年下の皇子の護衛を申しつけられてから、早6年。12歳の皇子を突如おしつけられ、呼び捨てと敬語無しを強要され、反抗期まっただなかの少年をつれて街へおりろと言われた日を今でもカグははっきり覚えている。それから一度も王宮に戻ってはいないが、こまめに連絡をとりあっている近衛士からの情報では、王宮は変わりないらしい。
「さて、どこに行きますかね」
何の予定もない旅ゆえの一言をマツリが聞きとめて、思い出したように言う。
「そういえばこの間、竹筒が一本割れてたよ。中身は空だったから荷物は無事だったけど。それに食料もたりないんじゃない?荷物の買いだししておこうよ」
「そうだな」
旅の基本、食料、水と防寒具。どこへ行くにしても最低限必要になる。金子は必要になればすぐに調達できるようになっているので、それは問題ない。
「買いだしか。…そうだ、そういえば昨日ここへ入った時にめずらしく揚げ餅の屋台があったな。あの時はしまってたが、今はあいてるだろう。私は市で買いだししてくるから、お前、適当に腹ごしらえのできそうなものを買ってくれないか。一廻(約一時間)で戻ってくるから、待っててくれ」

 安宿で皇子とわかれて、値切りに値切って必要なものを買いそろえた。市で値切らなければ、大損をすることになる。店のほうも、値切られるの前提で値をつけているのだ。
 風になぶられて、カグの銀色の髪がさらりとゆれた。まだぽつぽつと物珍しそうな視線をよこす人もいるが、こうして街を歩いている間に、カグ自身も他の月の民2、3人とすれちがっている。異民族が民に混じっていることは、だんだんと珍しいことではなくなりつつあるのだ。海に近い町では、混血も多くなっていると聞く。
 重い風呂敷をかかえて、安宿にもどる。今もどった、と言おうとして、反射的に身体が動いた。開けた扉のむこうに、皇子と対峙する人影があったからだ。カグは風呂敷を人影に投擲し、一瞬で距離をつめて皇子を自分の後ろにひっぱりこみ、細帯の結び目から取り出した刃物をかまえる。その間、およそ3秒。
「無事か!」
風呂敷を律儀にうけとめてよろける侵入者を油断なく見すえながら、切迫した口調で問うカグに、皇子は片手をあげて答えた。
「いやぁ、なにがなんだか。カグが来る直前に、その人、窓から飛びこんできたんだよ」
そして、風呂敷を丁寧に床に置いて、座った侵入者は口を開いた。
「どうも、お騒がせしました。僕はあやしい者ですが、危害を加える気は全くないのでご安心ください、近衛士殿」
ふわり、と、男は笑った。








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