12 | ナノ




 地下でトランスに入っていた身体に戻った彼らは、全員が全員うごけずにひっくり返り、使の二人が矢佐原に救援を頼むと、待機していたらしい救急隊員たちが全員を担架で運んでいった。その様はかなり異様で、芙紀乃と慶はおもわず爆笑して伊勢に睨まれた。矢佐原によると、彼らがはざまにいたあいだ現世では2日が過ぎていたということだ。
 そんな彼らも、仕事柄なのかどうなのかはわからないが、驚くべきスピードでリハビリを終え、いつもの五階の部屋に集まっていた。リハビリに要した期間は、わずか一日。ただ信だけは、まだ身体が衰弱しているようで、入院している。
「あのさ、俺思ったんだけど」
全員がそれぞれ飲み物を手にしてぼんやりとテレビを眺めていると、洋介が言った。
「使のお二人さんもテレパシーブレス作らない?何かと便利だしよ」
「ああ、それいいね!班長どう?」
葉月が賛成し、伊勢の許可を求める。完全に芙紀乃と慶の意向は無視だが、二人も特に異論は無い。
「いいんじゃねえか」
どうでもよさそうに伊勢がOKし、洋介は何故か嬉しそうに、葉月をひきつれて矢佐原のところへ向かった。
「本部長忙しそうだったけど」
北宮がつぶやくと、伊勢が真面目な顔をする。
「一応任務に関することですし、聞いてもらえるとは思います」
うん、と頷く北宮。しばらくすると、満面の笑顔の洋介と、うんざりしてはいるが、嫌ではない様子の葉月が帰ってきた。
「OK出ました!」
「お、良かったな」
「でも本部長生返事っぽかったよ…書類のせいで見えなかったし、倉田さんも唐沢さんも動員で、梵にも手伝わせるかとか言ってたし」
葉月の口からすらすらと知らない名前が出てきて、芙紀乃と慶は首をかしげた。
「倉田さんと唐沢さんは本部長の秘書。梵は…梵もそんな感じ」
北宮がめずらしく途中でつっかえながら、しかし無表情のまま説明してくれた。
「それにしても、こんなに大仕事ばっかりじゃあ命がいくつあってもたりなさそう」
芙紀乃のぼやきを聞き取った伊勢が、笑う。
「そりゃそうだ。いつもこんなんじゃあねえから安心しろ」
ケラケラと笑いながら、葉月がそれに続けた。
「そうそう、あたしだってそんないつも命がけだったらとっくに辞めてるよ。いつもはもっとまったり、一つの事案にせいぜい2、3人が対処するって感じかな。それにほら、今だってみんな暇そうでしょ」
言いつつ両手をひろげる葉月に、伊勢が顔をしかめて、税金の無駄遣い公務員みたいな言い方すんな、とつぶやいた。彼は、二人の納得した表情を見ると、さらに続けた。
「遠野の見舞い、行ってやれ。ついでに二人に池袋案内でもしてこいよ」
「了解、留守は任せました」
洋介が返事をすると、伊勢は苦笑する。
「本部長がその様子じゃ、数日は仕事は無いだろうよ。気にせず行って来い」
「行こう行こう」
葉月が芙紀乃と慶を急かす。彼女に追い立てられるようにして、二人は部屋を出た。先に玄関にいる、と言う葉月と洋介を待たせて、外に出られるよう身支度をしに与えられた部屋に戻り、また下に降りつつ慶がしみじみと言った。
「楽じゃないけど、悪くはないね」
「そうだね。しばらくはここにいようかな、って気になる」
うん、と頷いて、慶は芙紀乃を振り返る。
「人付き合いに疲れたからって勝手に旅に戻るなよ?」
しごく真面目にそう言われて、芙紀乃は慶の背中を軽くなぐった。私がお前をおいて行ったりなどするものか。
「はいはい、仮に戻るとしても慶には言うから安心して」
 ちょうどエレベーターのドアが開いて、急かす葉月の声が聞こえた。
二人は顔を見合わせ、芙紀乃が返事をして駆け出す。外は快晴、爽やかな秋空に鳩が舞っていた。

心霊対策本部・現世




(連続殺人事件編・了)
戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -