顔の無い人形 | ナノ



真っ暗な場所。
誰かがかがんでいる。
白い腕、脚、顔…いや、違う。かがんでいるのではない。
静かに息をのみ込んだ。
黒い服をまとった人が、白い人を殺している。
首にかけた手にゆっくりと力がこめられていく。ゆっくり、ゆっくりと、絞殺されていく人。
ごぽ、そんな小さな音を立てて白い人はくたりと体を弛緩させる。
黒い人が立ち上がる。
ぞくり、と寒気がした。それは恐怖か、それとも歓喜か。
ゆっくりと黒い人が振り返る。

…顔の無い人形。


・・・


ジリリリリリ…
手を伸ばして目覚ましを止める。
嫌な夢を見ていたような気がするが、忘れてしまっていた。舌の根がざらざらと気持ち悪い。

まったくもってすがすがしさのかけらもない朝だ。
カーテンを開けると、外はどんより曇り空。気分まで萎えてくる。

「さて、と」

冷たい水で顔を洗って、強制的に目を覚ました。適当に朝食を作ってかきこむ。
昨日の名残で少し痛む足をひきずって、スーツに着替える。

通勤途中、自転車とぶつかったのだ。別に大したこともなかったのでそのままにしておいたが、どうやら小さなアザになっているらしい。



出社。

いつもと変わらぬ仕事に、いつもと変わらぬ上司の笑顔。
楽しくも辛くもない、味気のないデスクワーク。
ふと窓の外を見ると、雀が一羽空を舞っていた。


仕事が早く終わったので外はまだ明るい。

駅へ向かう道。歩きながら空を見上げた。地面が湿っているから多分雨がふったのだろうけれど、今はもうすっかりやんでいる。

雲の、下の層が風に押し流されて泳いでいく。
上の層はほとんど動くことなく太陽をすかして目に痛いほどの白を輝かせていた。
風になりたいと思った。
どこへなりと自由に吹いて行ける、風に。

…いや、でも。
風になったとしても何も変わらないだろう。この単一な空は。


・・・


真っ暗な場所。
今日も自分は白い人を殺している。

いや、違う。

自分は黒い人に殺されているのだ。
ゆっくりと閉まる気道、血流が止まるリアルな感覚。

己の手が白い首に食い込んでいく確かな触感。

ころされているのも、ころしているのもじぶん。


何故、と問うてみた。

さあね、と人形が答える。知らないさ、そんなもの。



顔の無い人形が今日も私が殺す。








ορεiχαλκος様リクエストありがとうございました!心の闇、ということで、全体的にダークな雰囲気で書いてみました。上手く表現出来ていればいいのですが…それでは。梵天
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