昼休み | ナノ





「台風直撃しろおおお!!!!」
「うるせええええええ!!!」


豊橋商事、営業部。遊びに来ていた西山が絶叫し、かぶせて蒲原が叫んだ。
高柳が耳をふさいで顔をしかめる。

「薫が一番うるさいんだけど」
「ごめん」


西山は篠崎に殴られて悶絶している。まあね、と彼女が言った。
「台風日本列島縦断とかいいつついつも紀伊半島にたどりつくかつかないかのあたりで温帯低気圧に変わってるしね」
「ほんとそれな」
高柳と蒲原がほぼ同時に同じセリフを言う。二重奏。
「そうだよ!どうせするならちゃんと日本旅行してけよ台風!」
復活した西山がいくばくか落ち着いて、しかし声を荒げたままデスクに腰掛けた。

「でもまあ台風直撃したってそう簡単に休業にはならないだろうけど」
蒲原がつぶやいた。まくりあげていた袖をおろしてジャケットを手に取る。
「あ、S社だっけ」
「そう。新しいグリットのプレゼン頼まれてさ」
「いてら」
ひらひらと黒い上着を振って薫が出ていく。たしか外は猛暑だ。室内の温度計は25度をさしているが。


菅平は人事部の電話に釘づけにされていた。悪質なクレーマーに対処できなくなった高柳から篠崎に、それから蒲原、彼女、とたらいまわしにされた電話の主は怒髪天と化していた。それを簡単に見捨てて営業に避難してくる高柳と篠崎もかなり鬼ではあるが。


ニュースを騒がす台風18号は九州に大打撃を与えているらしい、が、東京豊島区池袋は平和なもので雲ひとつない青空が広がり、憎たらしい太陽が紫外線をさんさんと降り注がせている。ゆるい空調の効いた部屋で三人は同時に溜息をついた。
「まだ水曜日とか現実辛すぎ」
「あと2日だって考えようよ」
「いた、今週は土曜も出勤でしょ」
「うはー」

書類の山を恨めしげににらんで高柳が言う。
「営業の人手不足にモンスターカスタマー、多すぎる伝票と元気すぎる梱包、まともなのは製造だけかっての」

「いやーそれがさ、そうでもなくて」
西山が首を振った。
「選別のおばさん達いるじゃん?あそこに放り込まれた新入社員がこの前泣いててさ。どうしたのって聞いたらどうもしませんの一点張り、あれはいじめだね」
「ああ、そういえば開発部でセクハラだパワハラだ訴えてくる女性社員もいたね」
それか、と高柳が篠崎の言葉に頭を抱える。

「まああれだよな、こんな忙しい時にクレーマーの対応に優香駆りだしたってここの連中に知られたら怨まれるだろうな」
「・・・そうだねえ昼休み終わるまでに戻ってくればいいけど、菅平さん」
「ま、」
無理でしょ。
人事部二人の声がそろう。何しろクレーマー処理のプロの高柳ですら降参するような相手だ。怒髪天様。



昼休み終了5分前、営業の面々が戻ってくる。寡壁にかかったホワイトボードを見て蒲原の不在を確認、菅平の姿を探すが、その席にいるのは見慣れた面子。
「あの、篠崎さん。課長どこにいかせやがったんですか」
隈の濃い、若い男性社員が低く尋ねる。じゃ、じゃあ戻るね!の一言で西山は退散、篠崎と高柳は目をおよがせる。
「わかりました。ならお二人がこの書類処理作業、手伝って下さるんですよね?ですよね?」
「拒否権は・・・」
「ないに決まってるじゃないですか」
さすが薫の部下、と篠崎は口の中で悪態をつく。高柳はためらいなく菅平のパソコンをスイッチオン。
「私はこっちのヘルプで業務慣れてるからいいけど、まあせいぜい頑張ろうか?」
良い笑顔。そしてチャイム。

戻ってこない菅平。

怒髪天

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