#2 | ナノ






警視庁管轄捕縛特務機関、通称ホトク、俗称ダークサイド、別名プロジェクトX。
それが、私達のいるところの名前だ。

地上がじわじわと細菌に汚染され、人類が地下に逃れてから87年。人工的な光で太陽がうつされている偽物の青空の下で、極貧、親の細菌症などにより捨てられる子供達は増え続けていた。
大半は施しを受けることもできず死んでいく子供たちの中で、ある程度の大きさまで育ったストリートチルドレンを収容する施設がある。

ダークサイド、とは、そこで育てられた人間の集団ことをさす。

社会に存在しないことになっている彼らは、そのいびつな箱の中で高度な教育を受け、一定の年齢である審査を受けることになる。受かれば訓練場行き、受からねば死ぬとうわさされるその審査は、プロジェクトX、Y、Zの最高機密であると言われていた。


地下に潜った地球人はその活動テリトリーを大幅に縮小させられたが、かろうじて<国>という概念の元で割り振られた領域をゆるやかに守っている。

確かに、世界は平和になった。どこかいびつな平和だが、さらにいびつなものが地上を這いまわっている状態では宗教、権力、領土うんぬんと言っている場合ではなくなってしまっているのは事実だ。



細菌汚染と3つのプロジェクト、この説明はまた次の機会にしよう。

・・・いや、君たちがこの程度の事はその優秀な脳みそに記憶しているということは知っているが、これも形式だからな。

では、また。





―――――――――――――――――――――





「フタバさーん!フタバさん!!見て下さい、ヒトミさんからお菓子貰っちゃいました!」

廊下を歩く彼女を見つけてすっとんできた、齢15の少女はそう言って腕に抱えたマドレーヌの箱を、じゃん、という効果音付きで掲げた。
未開封の箱は白地に赤いリボンの、お菓子ブランドのロゴが入っている。

よかったね、とあきれたように笑って彼女は少女の頭をなでた。

「あっ今フタバさん絶対またかよって思いましたね?!まあいいですけど!一緒に食べませんか?」

「ごめん、俺ら今そのヒトミさんに呼ばれてモニタールーム行くところなんだ」

間髪いれずにフタバの隣でやりとりを眺めていた青年がそうことわった。ちらりと彼に
視線をやって少女はぷくりと頬を膨らます。一瞬でひっこめたその表情はどこか小動物を思わせた。

「また今度ね、イロハちゃん」再び少女の髪をかきまわして歩き出す彼女を見送って、少女は歩き出した。



・・・



「遅い!」
「いや・・・さっきそこでイロハちゃんに絡まれてたんすよ・・・」

重たい二重扉を抜けて薄暗い部屋に入ると、その部屋を埋め尽くしかねない巨大なモニターの前に座っていた女性が振り返りもせずに鋭い声をよこした。

別に見られているわけでもないのに気まずそうに視線をそらす青年。いや、見られているわけではない、というのは間違いだ。巨大なモニターの片隅に、ドアを監視するカメラの映像が映し出されているからだ。

すみませんでした、とおとなしく頭をさげて歩き出すフタバに彼も続く。

「で、なんなんすか」
巨大モニターの前に所狭しと並べられた小型モニターやコンピューターの数々をパタパタといじる女性、ヒトミ。


数分ほど無言で待たされ、彼がしびれを切らしかけた時、ようやく彼女が画面から顔をあげた。ゆるやかにウェーブした金髪に、若干たれ目ぎみの瞳。妖艶な美女である。

「うん、シイナ・・・あんたの通信端末、壊れてるでしょ、気付いてた?」
「えっ」


あわてて左腕に付けた黒い腕時計を見る彼、シイナ。特定のリズムのタップに反応して浮かびあがる立体ホロに特に異常は見られないようだが。

「いや、まあ壊れてるのよ、ソレ。多分タンマツ同士のネットワークに入れないんじゃないかしら。だから呼びだしもフタバちゃんのタンマツに送ったんだけど」

しばらくボタンをいじった後シイナはがくりと肩を落とした。
「壊れてるわこりゃ」

「ん。外してちょうだい」
ベルトを外して差し出す彼の手に新しいタンマツを装着させるるヒトミ。

「個人登録しといたからそれでオッケー。データ今写すから待って」

手渡された端末をコードでコンピューターに接続して操作する彼女。
「つまり私は特に用事ないってことですか」というフタバの独り言にごめんね、と画面を見つめながら反応する。申し訳なさそうな笑み。いいですけど、とフタバは返した。
「なんかイロハちゃんに悪いことしたなぁ」
「さっききたわよ確か。バディ探してるみたいだったわ」
「任務なんですか?あの子、・・・大丈夫かな」

お菓子の箱を思い浮かべて溜息をつくフタバを見てカラカラと笑うヒトミ。自らの左手の通信端末でコンピューターからデータを取り込み、シイナの新しい端末にかざしてそれを送り込む。

「ま、大丈夫でしょ。お菓子食べたさで絶対帰ってくるわよ」

確かに、と再び溜息をついてフタバは自分によくなついてくる小さな少女の無事を祈った。




マドレーヌ




(コージーコーナーだったなあれ)
(え?そうだっけ)
(ヒトミさん自分で渡した癖に・・・)

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