気づいたらすでにそうなっていた。
何も、つかめない。指先が透けていた。アイツが俺を必死になって探している。ここに。ここにいるのに。俺の体を突き抜けるアイツの視線はつまり俺を認識していないことを意味している。
……声が、出ない。
近づいて肩に手をかけようとしたが、俺の透けた手はむなしくも空をきる。どん、と体当たりのマネをするが、ふわりとその体をすりぬけて後ろに出ただけだった。
くそ、なんで、……こんな。
死んだ記憶はない。それどころか寝てもいない。だからこれが幽霊、とか、幽体離脱、とかそういうたぐいのものではないことは分かる。
そもそも体がそのまま透けているのだから、これは、そう。
透明人間、と表現するのが正しい。
厳密に言うなら半・透明人間か。残念なことに不完全なこの現象は俺の輪郭をぼんやりと空中に残しているから、……彼女に見えないということは、これは俺にだけなのかもしれないが。
アイツが途方にくれている。直接触れられないのなら紙にでも書こうとして、オーマイ、ペンさえすりぬけるのを忘れてた。ならば風でもおこせないかと頑張ってみるが言うまでもなく。
……ああ、困ったな。
しゃがみこんだアイツの肩がふるえている。なんでこいつは俺より年上のくせして泣き虫かな、とか。困ったことに俺はアイツの泣き顔が大の苦手だ。原因が俺なら、ことさら。色々と解決方法を考えたが、世界に干渉できない今の状態では、何もできない。そもそも地に足が付いているかも怪しいというのに。
地面に塩水がぽつり。
まいったまいった。オーマイ、いるかいないかも知らん、信じてなどいない神様よ、どうか、今だけは。アイツの涙にかざした手を、どうか。
指先にぬくい雫を感じた。
オーマイ、神様