（・・・まずったなぁ）
容赦なく回る秒針を眺めつつ心の中でごちた。
問題冊子をながめれど、答えがひとりでに浮かんでくるはずもない。
（こんなことなら、）
昨日徹夜で問題集解いておくんだった、と。
今更後の祭り、後悔先に立たず。
唯一の慰めは、右斜め前の友人二名が自分とまったく同じ様子で頭を抱えていることだが、いやそれにしてもまずいぞこれは。
ふふふ、と腹の奥から笑いのような息が漏れる。声帯を震わせることなく抜けた窒素と酸素とすこしの二酸化炭素は解答用紙の空白になんの痕跡も残さず落ちていった。
することがないので点数を予測してみた。さすがにあっていてほしいと祈りをささげつつ計算すること約５秒、５点。
人生終了のゴングが高らかに鳴り響くがそれもただの錯覚で前後左右からはカツカツとシャープペンシルを紙に叩きつける音のシャワー。
（あ、寝てる）
ふと視線を投げかけると、例の友人はあきらめたのか夢の世界に旅立っていた。それに倣おうと、脳はいつでも安易な方向へ逃避行をする。
（でも、）
考えたところで何も変わらない。
空白の解答用紙も。
出来ることはただ記号問題があっていることを神に祈ること。
アッラーにか、ヤハウェにか、それとも仏陀か、いやイエスか。
確かアッラーとヤハウェって同一人物だったか、と思考してみるが倫理の時間に授業を聞いたことのない自分には到底分からなかった。
いっそ遊ぼう、と決意して、空白の解答欄にローマ字で懺悔文を綴る。化学反応式なんて高等なものを求められても、何一つひねり出せないんですごめんなさいそもそもモルってなんでしたっけファラデー定数なにそれ美味しいの。
チャイムの音と音と音。
あれ、おかしいな記憶が飛んだ。
空白に塗りつぶされた記憶、異様なけだるさ、熱っぽいからだ。まっしろな解答用紙。
・・・あぁ、これは。
寝てた。
その空白、致命傷
えーその、すみませんでした（土下座）つい気分でこんなノリになってしまいましたが、胡蝶さんリクエスト空白、読んでいただけたら幸いです。ついでに執筆者可燃ゴミはさすがにこの文章ほどではありませんが化学に嫌われてます。