ふたりぼっちの恋D
―――何をやってるんだ、俺は。
くたりと躰を投げ出したカイを両手で支えてやりつつ、ソルは自己嫌悪に頭を抱えた。 止めさせるつもりが、結局最後はこっちが熱くなってしまった。 原因は判っている。否、自覚したというべきか。
(ああ、そうだよ。嫉妬だよ、畜生)
カイに男を悦ばせる手管を教えたらしい、顔は疎か名前すら知らない人物に、自分は嫉妬したのだ。 理由など推して測るまでもない。
「…クソったれ」
「………ソル…?」
ピクリと金の睫を瞬かせて、小さな躰がのろのろと起き上がった。すぐには力が入らないのだろう、ゆっくりとしたその弱々しい動作に、ズキリと良心が痛む。
「無理させて悪かったな…」
ちょい、と丸めた指の背で頬を撫でてやると、擽ったそうに目を細め、そして嬉しそうに擦り寄ってくる姿が愛しい。
「疲れただろう? 今日はもう休め」 「………ソルは……?」 「いや、俺は…」
気拙そうに言い淀むと、カイはこちらの状態を察したらしい。少しだけ泣きそうに顔を歪めて、そうしてカイは目の前の勃起に手を伸ばしてきた。
「…ッ…」
ビクリと肩が跳ねる。 忘れていた、というより忘れようとしていた熱を穿り返され、一気に腰が重たくなる。
「…止せ…、カイ…」
先程のカイの痴態を間近で目の当たりにした時でさえ、鋼の理性で持ち堪えていたというのに今ではちょっとした刺激で決壊してしまいそうになる。言い換えれば、もはや我慢の限界なのだ。 だがカイはふるりと首を振り、そのまま聳り立つ肉棒に抱きついた。器用に脚を絡ませ、亀頭まで難なく這い登る。
「…ン、っん…ぁ……ソル…っん、あ…っ」
止める隙もあればこそ。 先端に跨り上気した顔で鈴口に自らの股間を押しつけて淫らに腰をくねらせるカイに、ぷつりと頭の中で何が切れる音がした。
・◆・◇・◆・◇・◆・
「お帰りなさい」
実験ラボの方から研究室へ戻るなり、弾んだ声で迎えられた。
『お帰り』『ただいま』
ほんの少し前までは、この言葉がこんなにも心地好いものだとは知らなかった。 たった半日、部屋を空けていただけでこうなのだ、自分も随分とヤキが回ったものだと呆れにも自嘲にも似た笑みが漏れる。
「…躰の調子はどうだ?」
もはや癖のようになった、顔の輪郭から首筋に掛けてを指の背で撫でると、気持ち良さそうな微笑みが返ってきた。
「大丈夫です。私もこの子達も、みんな元気ですよ」
ソルの指を自分の腹の方へと持っていく。カイの躰の倍ほどに膨らんだ腹は、柔らかくもしなやかに張った皮膚の下に息づく命の胎動を確かに伝えてきた。 カイの妊娠が発覚した時は流石に驚いたが、ギアが両性体だという事を考えれば有り得ない話でもない。
強靭な肉体に殺傷能力に長けた爪と牙、人の手によって造られた兵器といえど(否だからこそ、か)総ての生物のヒエラルキー、その頂点に君臨するギアは、だが総じて生殖能力が低い。両性というのも、数少ない繁殖の機会にその確率を最大限に上げる為という要因が大きいだろう。 その分戦闘本能に特化させてこそ今日のギアプロジェクトがあるのだが、その代償は生物として致命的だ。 ギア研究は随分昔から続けられているが、その長い歴史の中でも自然繁殖に成功した例は終ぞ見られなかった。それが、今。
改めて、大きな腹を愛おしそうに撫でているカイに目を落とす。 同じギア同士でも子を成せなかった―――否、もしかしたら異種間であったからこそ起きた奇跡なのかも知れないが、それも今となってはどうでもよかった。
ヒトだろうとギアだろうと、カイと、そして生まれてくる子供達が笑っていてくれるのなら、それでいい。 心底そう思ってしまっている辺り、自分ももう引き返せないところまで来てしまったようだ。引き返したいとも思わないけれど。
「……ソル?」
心配そうに見上げてくるカイに口づけを落とす。手のひらの中にすっぽりと収まってしまう小さな躰に、抱え切れないほどの想いを込めて。
それは広い広いこの世界で、
たった二人ぼっちの恋 (きっと、ずっと、貴方を探してた)
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