ふたりぼっちの恋C
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今思えば、既にあの時から情に絆されていたのかもしれない。 ここに辿り着くまでによほど散々な目に遭ってきたのだろう――実際、最初にカイを目にした時は常識離れしたその存在にばかり気を取られていたが、よくよく思い返せばそれは酷い有り様だった――弱り切ったその様子に、 戦争は嫌だと言った、あの痛々しい微笑みに、 ここに居たいと言いながらも、拒絶の言葉に怯えていた瞳に、 自分に名前がない事に失望し、そして諦めてしまったかのように震えた瞼に、
つい、仏心が芽生えた。
出来る限りは力になってやりたいとも思ったし、ここに居たいというなら好きなだけ居ればいいと言ったのも本心だ。 "カイ"という名前も、あの時自然と口から滑り出た。だから自分がそんな大層な事をしてやったとは思っちゃいないし、大仰に礼を言われるような事でもなかった。 けれどコイツが本当に、本当に嬉しそうに笑うものだから。 その笑顔が、とても愛しいと思ってしまった。守ってやりたいとも。だが断じて。
断じてこんな事態を望んでいた訳ではない。
小さな唇と粘液を載せた舌先が、飽く事なくソルを舐め回している。もう既に充分な熱と大きさを主張している肉棒の根元に舌で吸いつかれ、思わずビクリと一瞬腰が浮いた。
「…ッは、…」
くっと顎を引いて、息を詰める。ヤバい。溶ける。 精管を押し開いて、精液が迫り上がってくるのが判る。だが今ここで肉欲に任せて欲望をぶち撒けてしてしまえば、きっともう、後戻り出来なくなる。 ぐっと肚に力を入れ直し、ソルは自分の下腹の上で踊る白い体に声を掛けるべく、深く息を吸い込んだ。
お礼がしたいと思った。 暖かな寝床も、充分な食事も、心休まる居場所も、そしてこの名前も。 彼がくれたたくさんの優しさや喜びを一つでも、ほんの少しでも返したくて。 けれど自分はギアで、ギアのくせに非力で、何の役にも立てない。それが悔しくて、悲しかった。 だからお礼をさせてくれと言った時、気にしなくていいと苦笑しながらも、彼が受け入れてくれた事がとても嬉しかった。
それを思えば、幾らでも気合いは湧いてくる。
外れそうになる顎の痛みも気にならないほど熱心に、そして丹念に節くれ立った幹の筋に沿って舌を這わせ、唾液を塗りつけていく。
「ん……ちゅっ、ぷ…はぁ…ぅあ…」
自分の身長ほどもある長大な肉をくわえる事は出来ないので、代わりとばかりにただひたすらに幹をしゃぶり、舌を蠢かせる。 丸めた舌先でグリグリと穿っては、裏筋の縫い目に沿わすように舌を絡めれば肉棒がビクリと一つ、大きく脈を打った。
「ふ…ん、ぁ……ソルの…また大きく、なってます…」
舌先で感じるその熱量と、激しさを増した脈動に自分の奉仕でソルが欲望をたぎらせているのだと思うと嬉しくて、より一層愛撫に熱が入る。 もっともっと、ソルに気持ち良くなってもらいたい。その一心でカイは更に大胆に、全身を使って擦り立てる。
両の腕で抱き込んでもまだ余りある幹の太さに些か気圧されるも、精を強請るように手足を絡みつかせて浮き出た血管を上下に扱く。 ぴたりと肌を密着させて濁り気味の先走りを全身に塗すように体を揺らせば、甘い痺れが腰骨から這い上がってきた。
「あッ…あ、ふ…ん…ぅっ…」
しがみついた肉厚の幹に自身の快楽の源が擦れて、思わず甘ったるい吐息が零れてしまう。
「…ん、ん…ぁ…だめ、…ぇ…」
今はソルへの奉仕が第一だ。自分が気持ち良くなっている場合ではない。 そう頭の中で叱咤するも、じんわりと下腹に蟠る熱に意識も感覚も支配されていくうちに次第に理性も躊躇いもぼやけてくる。 ほんの少し腰を動かしてしまえば、もう駄目だった。 ソルの肉柱に押しつけるように擦られた性器がじくじくと疼いて、堪らなくなる。何も考えられない。
「あっ、い…いい……ぁ、ァ…んっ…あ…ッ」
ごつごつと太い筋の浮いた竿にぷくりと紅く凝った胸の尖端と張り詰めた屹立を擦りつけ、先走りの滑りに助けられながら激しく体を揺さぶって快楽を追う。 自身とソルとの間で揉みくちゃにされた剥き出しの性感が、息が詰まるほどの快感を脳髄に送り込んでくる。
「…っは…ぁ、はあっ……や、あ…っ…とまらな…、…」
身じろぐ度に躰の芯が捩れるような切ない熱が生まれ、その捌け口を求めて啜り泣く腰の動きを止められない。
「ふ、ぁ…あっ…ソル……ん、ン…はっ…ぁ……そる…、ぅ…っ」 「……カ、イ……」
掠れた声で、自分を呼ぶ声がした。 熱に浮かされ、うっとりとした瞳を頭上に向けたカイはだが、次の瞬間冷水を浴びせられたかのようにはっと我に返った。 霞がかかっていた頭は一瞬で晴れ、ぼんやりとしていた思考も一気に引き戻されていく。
「…カイ……も、いい…」 「…ぁ、…」
興奮と情欲に弾む息、けれどその瞳はとても辛そうで、カイは狼狽えた。
「ご、ごめんなさい……気持ち良く、なかったですか…?」
とはいえ、ソルが不快になるのも当然だ。最後の方など、明らかにソルをそっち退けで自分ばかりが快楽に溺れてしまっていた。 彼にお礼がしたくて始めた行為なのに、これでは台無しだ。
「ごめんなさい……でも、私…これしか出来なくて…」
自分のあまりの不甲斐なさに涙が出てくる。
「あ、あの人はいつも気持ちいいって言ってくれていたから……だからソルもきっと喜んでくれるかと思って……ごめんなさい…」
ぎゅっと目を瞑って縮こまるカイに、ぴくり、と眉尻が攣り上がる。
「……カイ…」 「…は…、ひぁ…!?」
繊細さとは程遠い太い指が、ぺたりと秘部に触れた。未だ芯の通ったカイの小さな性器を撫で擦るように、何度も、些か乱暴に刺激を与えていく。
「…やっ、…ひ…うぅっ…」
足を閉じ合わせようとしても、大きな指先がそれを許さない。あっという間に先程の熱が再燃し、膝が震える。
「あ、あっ…駄目……だめぇっ…」
きゅっと縮んだ後ろの陰嚢の方まで弄られ、カイは声を裏返らせた。
「ふぁ、っん…やぁ……お、怒って…んっ、ん……ますか? ソル…ぁ、ア……ごめんなさ、っ…ごめんなさい…」 「……」 「…や、やっ…ぁ…、あぁんっ」
ヒトでいう所の尾てい骨から伸びた長い尾の、細かく生え揃った産毛を逆立てるように撫でられ、ゾクゾクとした妖しい感覚が背筋を駆け上がる。続けざまに敏感な場所を嬲られ、腰が揺れた。 そんなカイの反応を確かめるように、上から下へ、下から上へ。そして。
「ひッ…あ、や…いやぁっ…」
するり、と小さな丸みを帯びた尻の肉を割られ、その奥で震えていた窄まりを突かれる。 様々な薬品で荒れたソルの指。少しざらついた、ささくれた皮膚が敏感な肉を引っ掻き、泣きたくなるような衝動にカイは喘いだ。
元々傾斜も弾力もある人体の上で、大きな指で尻を押し上げられ足元が覚束なくなる。堪らずよろけたカイは、再び突っ伏すようにしてソルの高ぶりにしがみついてしまう。 ずるずると体が沈みそうになっては、押し戻される。視界が上下に揺れ、体全体で感じる熱と周りに充満するソルの匂いに、思考が怪しくなっていく。
「く、ふ…ぅ…ひっ、んん…っ」
やがて割り開かれた足の間を占領していた太い指は、ぐっと強引に捻じ込むような動きに変わりカイは一際大きく身を震わせた。 壊れる。そう思った。 強過ぎる快楽に、この小さな躰が耐えられないのではないか、と。
怖い。けれど気持ち良くて堪らない。 犇めき合う全く逆の二つの感情に翻弄され、縋るように抱きついた腕に力を込める。ドクドクと脈動を響かせるそれに頬を寄せると、少し安心した。 大丈夫。ソルが居てくれる。だから―――
「ぁ、あ…ソルっ、…ソル…ぅっ」
直後訪れた性の解放に、カイは限界まで背筋を仰け反らせた。
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