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 Proverb of the kiss




 ちゅっ、ちゅ、と湿ったリップ音が絶え間なく耳朶を擽る。時折気紛れな舌が肌を撫で、かと思えばいきなり噛み跡が残るほど悪戯に歯を立てられ、否応なく息が上がっていく。

「んっ…も……いい加減、に…」

 だが先程から執拗に愛撫されているのは下半身ばかりで、そのくせ肝心な所には指一本触れてこない男に焦れ、アーサーは恨みがましく己の脚の間に陣取っているギルベルトを睨む。

「は、お前だって好きだろ…こことか」

 対するギルベルトはそんな非難する眼差しなど一切意に介さず、するりとアーサーのその白い肌に指を這わせた。途端、白魚のような細い脚が大袈裟なくらいびくりと跳ね、予想通りのその反応にギルベルトはくつりと喉を鳴らした。

「ッ…好きじゃ、ない…」

 そんな見え見えの可愛らしい強がりにすら煽られて、ますます暴いてやりたくなる。

「ケセセ、そうかよ。けどまぁ、折角だし付き合えよ」
「…なに…?」
「まずは…崇拝、だったか」

 普段の騒がしい態度が嘘のように、まるで大切な物でも扱うような洗練された手つきで恭しくアーサーの足を取り、ギルベルトはその爪先にそっと唇を寄せた。
 思いも寄らないその行動に目を丸くするアーサーが止める間もなく、ギルベルトは尚も口づけを続ける。

「隷属」

 流れるような仕草で唇を滑らせ、足の甲に。

「服従」

 そのまま脛、膝、そして、

「ーーー支配」

 ちゅ、と一際強く吸いついた腿には、色鮮やかな紅い花弁が散る。それを確認したところで、ギルベルトは満足気なを浮かべた。

「…何かと思えば、キスの格言か。俺がお前に支配されてるとでも言いたいのか?」

 まさに今、慾を剥き出しにした男に急所とも言える下半身を押さえられているという状況にあってなお、そのペリドットの瞳は微塵も揺るがない。透き通るような瞳に、強い意志を宿して。
 そしてその眼が、どうしようもなくギルベルトを捕らえて離さないのだ。
 ぞくりと心の底から湧き上がるこの感情を支配と呼ぶのなら、きっとそうなのだろう。尤も、

「アルトが支配されているとは、限らねぇけどな」

 ポツリと漏らした呟きに相手が反応する前に、ギルベルトはさっさとその唇を塞ぐ事にした。





見えないに繋がれる 
(それは甘いキスの束縛)