勘違いが生み出す勘違い




「きょーこさぁぁあん!!佐藤さんが、佐藤さんがぁ!!」

「なんだ種島、また佐藤か」



種島さんと佐藤さん。このキッチンワグナリアでのある意味中心的な人物だ。ある種漫才にも見えかねない二人のやり取りは、ここでのムードメーカー的な役割を果たしているのだと思う。
だがしかし。俺は内心穏やかでは居られない。



「(くっ佐藤さんめ…種島さんにあんな風にじゃれ会えるなんて………くっそ羨ましい!!)」



ぎりっと奥歯を噛み締めるが、手は変わらずに洗い終えた皿を拭く作業を続けている。そもそも種島さんは俺の世話役…というよりは指導係に当たってくれて一緒に居れる時間が多くなると期待して浮かれていたのに、なんだこの有様は。明らかに佐藤さんと話している事の方が多いじゃないか。
いやそりゃあ俺と佐藤さんじゃここで働いていた時間が違うし、種島さんと一緒の時間も長いだろうし?ひよっこで口下手でまだ馴染めていない俺なんかより古株の気心知れた佐藤さんと話してた方が楽し…ってあれ…自分で言っててなんか悲しくなってきた…



「名字くん、どうかしたの?」

「っ!!!?」



ひょっこりと愛らしく顔を覗かせた種島さんに言葉にならない声をあげ、ずさっと反射的に仰け反る。心の準備も何も出来ていなかったため、心臓が張り裂けそうな位に驚いている。



「あ……えっ、と…」

「何だか浮かない顔してたから、なにか悩み事でもあるのかなって!私で良ければ相談に乗るよっ!」



任せて!とでも言わんばかりに胸を張り、ぽんと一回自信を示すように軽く叩く。可愛い新人くんのお悩みなら、先輩が何とかしてあげなくちゃ!
そんな副音声が聞こえそうな俺は重症なのだろうか。しかし本人を手前、他の男の人と仲良く話していたのが悔しいですなんて言えるはずがない。言えるのはチャラい奴だけだ。だが誤魔化そうにも、他に悩み事なんて急に早々思いつくはずもない。相談されるという期待に満ちた種島さんの輝かしい瞳が俺をしっかりと映し、余計に頭の回転を鈍らせる。



「……………あの…」

「うん!何でも言ってね!」

「さ…佐藤…さん、と……………」

「うん!」

「たね、しまさん……………な、仲が…良い、です、ね」

「えっ、そうかなぁ?佐藤さん、私がここ来た時からずーっと居たからね」



くっ俺はなぜ自分で傷を抉る真似をしているんだ…っ!無邪気に笑う種島さんの笑顔が、余計に胸にぐさりと突き刺さる。



「あっ!もしかして!」



可愛らしく両手をあわせ、何かに気付いたらしい種島さん。ま、まさかバレたか!?俺が佐藤さんに嫉妬していただなんてバレたら男としての器が…



「名字くん、佐藤さんと仲良くなりたいんだ!?
確かに佐藤さん見た目は恐いかも知れないけど、実はとってもいい人だよ!…って痛いよ!佐藤さんなんでぶつのー!?」



は?と一瞬、俺の世界が止まった。きらきらと輝いた顔の種島さんは佐藤さんについて仲介しようとしてくれるが、通りかかった佐藤さん本人からチョップを食らっていた。
違う、違うんだ種島さん。佐藤さんじゃなくて君と……とは、とても今の俺に伝える勇気も気力もなかった。


…部屋の隅で、笑いを堪え切れていない様子の相馬さんの存在なんか俺は知らない。知らないぞ!!


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お題提供元:poison sweet
種島ちゃんかわいい!ちっちゃい!かわいい!
(2014/01/21)



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