少しづつ蝕む恋心
※百合夢注意
初めて見た時、なんて美しい子なんだと思った。白い砂の様に写す肌も、そのガラス玉の様な瞳も、海の水面の様に美しい髪も。まとう空気すら違って見えて、天使とはこういうものなのかとすら思考が傾いた。
巫女のシルシを砕き、ただのヒトとなった彼女を、逃がさずにあの人は檻に閉じ込めた。大事なものは逃げないように、とでも形容するかの如く。
「……ねぇ、貴女はいいの?」
物憂つげな瞳に問い掛けた。鎖は解かれてはばたけるのに、かごなんかに閉じ込められて。
「……………」
返事はなかった。彼女の中に答えがあって私に応えないのか、それとも彼女の中に答えがないのか。私は彼女が知りたかった。鳥かごに閉じ込められた、女の子の事を。
それを見透かしてか、あの人は私に彼女の世話役を課せた。
「初めまして、今日より貴女の世話役になったナマエです。宜しく」
柵越しにそっと手を差し出す。柄にもなく緊張している、うまく笑えているだろうか。出来るだけ変な印象は与えたくないなぁと、差し出した手が僅かに震えた。
「そう…よろしく、ナマエさん」
ゆるりとした動作で手を伸ばし、私の手と軽く握手を交わす。同じようにゆるりと表情が崩れ、初めて彼女の笑顔と対面した。
思えばあの時すでに、決定打を打ち込まれていたのだと思う。
「サカナちゃん、あの人は…?」
「さっきどこかへ出掛けてしまったわ。それよりナマエ、私とお話しましょう?」
「…喜んで!」
私たちの会話は、いつも柵越し。初めて会った時からそれは変わらないが、唯一私たちには変化があった。
「ナマエは美人よね。だけど気が強いから、男の子を尻に敷いてそうだわ」
「あはは、尻に敷いてる所は当たりかもね。でもサカナちゃんの方が銀河級に綺麗だよ」
「ふふ、ありがとう」
ドキドキと心臓の音が体を巡っている。たった一言美人と言われただけで、綺麗だと言うだけで、こんなにも心臓が震える。笑った瞬間長いまつ毛の影が落ちた瞳さえ、絵になる美しさだ。
「でも、男の人は綺麗よりかわいい女の子の方が好きなのかしら」
ふっと一瞬で、私と話しているサカナちゃんから、恋する女の子の顔つきになる。そういった瞬間に、私も一瞬にして血の気が引くような思いに焦がれる。
「……サカナちゃんは美人で可愛い、とっても素敵な女の子だよ」
ゆっくりと、滑らかな白い頬に触れる。言い聞かせる様に撫でれば、にこりと花の様な笑顔で手を重ねてくれる。
「ありがとう。ナマエはまるで王子さまね」
少しづつ蝕む恋心
目眩がしそうな感覚に、涙が出ないように目を瞑り笑った。
王子さまみたいに振る舞えても、私は貴女の王子さまにはなれないのだから。
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お題提供元:
poison sweetサカナちゃんへの愛を拗らせている気がしてならない
(2014/01/21)