焦れったいのは嫌なんだ




「ヘルベルト様、お茶は如何ですか」



不機嫌を隠しもしない顔に笑顔で問い掛ける。ソファテーブルにはカップがふたつ、湯気をたててその匂いを部屋に漂わせていた。



「貴様は何故、二度も私に仕える真似をする?私の事が憎いのではなかったのか」



長い足を組み替え、机に肘を着いて手を組む。直球な言い回しに思わずクスリと零すと、何が可笑しいと整えられた眉を更にひそめた。



「嫌ですね。私がいつ、貴方を憎いだなんて言いました?」



最初は私も、ただのギヴァーだった。POGの一員としてパズルを作り続け、地位を高めた私が配属された極東支部は上が居らず、実質私のモノと化していた。

――そう。この男、ヘルベルトが現われるまでは。
この男が現れた事により、私の天下は呆気なく崩れ去った。
この男が私を縛り、押さえ付けるなら、私はその立場を奪い取るまで。そう思って私は彼に従順な振りをして近付いた。



「白々しい…また私に近付いて、寝首でも掻くつもりか」



自分は余裕だとでも言うように鼻を鳴らし、頬杖をついてはニヤリと口元を歪める。
彼がPOGで失脚し代わりに新しい上司が着いた時、私の居場所はそこにはなかった。新しい上司は管理官というPOGトップで付き人も居たし、何よりも圧倒的な退屈が私を襲った。
退屈は人生の敵だ。それからの私は、オルペウスオーダーの指揮官となった彼を追うように、再び下に就く事に決めたのだった。



「そこまで分かってるのに、肝心な所は抜けてるんですね」



ソファから立ち上がり、身を乗り出して彼の机に腰を下ろす。更に体を傾け瞳と瞳が引き合う様に距離を詰め、頬を包み込むように触れれば不機嫌な眉間に更にしわが寄る。



「貴方の傍でないと、私が嫌なんです。意味、わかりますよね?」



まるで愛を囁くように、綺麗に唇が弧を描いた。その動作はやけに熱を帯び、ごくりと喉元を鳴らした。





焦れったいのは嫌なんだ



したり顔で追い詰めた"つもり"だった表情が、みるみるうちに紅くなり、動揺を隠さない追い詰められた獲物の顔に変わった。
これだから彼は、やめられない。



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お題提供元:poison sweet
本当にヘルおじはヘルおじであるが故にロマンティックが止められない。
(2014/01/21)



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