初夏の夜の恋情
ソフィア号の無機質な感触から、ゆるやかに沈む砂漠へと足を降ろす。
昼間は遮るものがなく直接太陽光を浴び恨めしさすら覚える空だが、夜は月光と足元で反射する砂でまた別の明るさを保っていた。
「秀斗くん?」
夜中に砂漠へと降りた理由の人、やけに砂漠が似合うその後ろ姿を見付け、声をかけた。
「ごめんね、こんな夜中に呼び出して」
「ううん、平気平気!…どうかしたの?」
少し眉を下げて振り返った彼に問題ないと笑って見せ、逆に私がはてなを浮かべて問い掛ける。夜中砂漠へ呼び出すなんて、何か重大は相談とか、大きな理由があるのかも知れない…
「どう…って事じゃないんだけど…」
気恥ずかしそうに頬を掻いて、視線を逸らす。
ほら、と上げた視線を追えば、広大な濃紺に光り輝く白い星々。流れる様に集う星は、それが特別なものだとすぐに解った。
「……!うわあー凄い!天の川!?」
「今日が七夕だって、さっき思い出してね」
仰いでた視線を隣へ向ければ珍しく、それでいて久しぶりに見た、照れ臭そうに笑う彼がしっかりとこちらを見ていた。
「ここは星が綺麗だから、一人で観るんじゃ味気ないかな、って思って」
無邪気に笑う彼に、2年間も会えなかった寂しさと、会えない間に変わった逞しさ、それでも変わらずに自分に笑顔を向けてくれる嬉しさに胸がいっぱいいっぱいになって、
「秀斗くん…ありがとう、すっごく嬉しい」
名前ちゃんの口から出た言葉は少し震えていて、その言葉には嬉しさ意外の感情が見え隠れしている様な気がした。
「どう致しまして。僕も…その、名前ちゃんと観れて嬉しい、よ」
だけどそれよりも、薄ら涙を浮かべる彼女の笑顔が真っ先に僕の胸を掴んでまともに顔も見れず、普段出てくる言葉をも詰まらせる。
「ふふ、秀斗くん顔真っ赤」
「…まったく、名前ちゃん相手だと適わないや」
長い間に築かれた隔たりが、触れられなかった距離から、温かみを感じる距離まで縮まった。そんな夏の夜だった。
初夏の夜の恋情
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すずりん好きすぎて胸がつらい
(2014/01/21)