着信音の告白



普段から聞き慣れたポップで軽快な着信音が、不釣り合いで器質的な事務所に鳴り響く。



「携帯?誰だ一体…」



自分の席から遠ざかりディスプレイを開くと、それこそ今の時間は見ないであろうと思っていた名前が表示されていた。



「もしもし?」

『あ、もしもし、名字くん?』

「どうしたんだよ一体…まだ仕事中なんじゃないのか?」



高めのゆったりとした声が、電話口から耳へと届く。紛れもない、我らがアイドル竜宮小町の三浦あずさだ。
ホワイトボードに視線を移し今日の予定を確認するが、今の時間は音楽番組の収録中のはず。次の現場への車の送迎依頼か、はたまた彼女の事だからまた迷子になったのか、と思い当たる電話の理由を頭で探す。



『今は休憩中なの。そっちはお仕事、忙しかったかしら?』

「いや、大丈夫だけど…何か急用か?忘れ物でもした?」

『もう、違うわよ』



頭をフル回転させて三浦が電話を掛けてきた理由を並べてみたが、恐らく電話の向こうでは口を尖らせているであろう。子供の様に拗ねた声で俺の思考が止まった。



『……名字くんの声が聞きたいなぁって、思ったの』


やけにゆっくりと耳に響いた撫でるような声色と言葉に、危うく携帯を落としかけた。



「……っな、」
『ふふ、それだけなの。お仕事中にごめんなさいね』



ふわりと優しく笑うような声も、今の状態ではまるで甘い毒の様だ。なんとか声を絞りだして大丈夫だと伝えるが、頭の中はほとんど真っ白だ。



『それじゃあ、後のお仕事も頑張るわ』

「あ、あぁ、頑張って」



プツッと回線が切れたあと、単調な音が流れたままなのも気にせずに脱力しするりと腕が落ちる。だらしなく歪む口元だけは、片手で隠しておいた。

あれは反則技、だと思う。



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あずささんに甘い声でうふふって言われて落ちない男はいないと思う
(2014/01/21)



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