紫の方程式



HDアカデミーとか言う組織に入ってから、ジャックは全く私と会ってくれなくなった。
HDアカデミーが何をしているのかはよく知らないし、ジャックもその事については触れもしなかった。

だから私は、彼に起こった変化に気付けずに居た。




「ジャック…?」

「どうですか?私の新しい作品は」




今さっきエクスカリバー戦を終えたジャックは、会えなかった時間など気にしていないかの様に口角を上げて歩み寄ってきた。

世界が熱狂するバトルブレーダーズ世界大会が始まる寸前、今まで姿を見せなかったジャックが、急に私の前に現われた。
久しぶりに会えた嬉しさもあり、彼が引いた手に導かれるまま試合会場に連れられた。そして目の当たりにした、ジャックの絶大な力。
何も変わらないはずの笑顔が、今はゾッとするオーラを纏っているように見えた。




「……気に入って頂けませんでしたか?」




硬直する私を、作品が気に入らなかったと取ったジャック。私の頬に手を添えて、残念そうにゆるりと首を傾げた。紅色の髪が、つられてふわりと揺らめく。
その動作がやけに可愛らしさを含んでいて、不意にも胸が鳴った。




「でも、次はきっと喜んでくれるはずです」




そんな動作から一変、何かに侵されたような、熱心な熱さと冷酷な冷たさを含んだ瞳に捕らえられる。
ジャックは変わった。止まりかけた頭で、その言葉だけが浮かんだ。




「…ねぇジャック、どうしたの?HDアカデミーで、何があったの?」




絞りだすように発した声は微かに震えていて、頬に添えられた手に自分の手を重ねて包む。
ジャックは出会った時から芸術家肌というか、少し変わった人ではあった。だけど、それは純粋に自分の芸術を追い求めていた姿だったから、私も好きで彼の隣に居た。
私の好きなジャックは少なくとも、人を傷付けて平気で居られるような人じゃなかった。




「…………」




訴えかけるようなナマエの視線を遮るように、ジャックは視界を閉ざした。
閉ざした瞳に写るのは、昔の私と彼女。

溢れ出すインスピレーションを表す力がなかった時から、笑顔で隣に居てくれたナマエ。
未熟過ぎた自分の作品でも、好きだと、素敵だと言ってくれた。上手いとは言えない作品を褒めてくれるのが、照れ臭かった。
あの頃とは違い、今は表現する力を手に入れた。

――そう、ベイブレードという力で。

完璧な力で、完全な作品を作れる。
この力で素晴らしい作品を作れば、彼女も昔以上に笑ってくれるに違いない。




「…全ては、貴女に捧げます」




こつんと触れ合った額は、ジャックの温もりと仮面の冷たさが混ざりあっていた。





紫の方程式
(混ざり合ったのは、赤と青)


* * *

メタベイにすっかりハマりました。やっぱりベイブレードは面白い!好きだ!
しかし最初に書いた夢は最愛の遊くんでも無く、まさかのジャックでした。自分でもびっくりです
ジャック結構好きなのですが、全く作品見かけなくてカッとなりました。自給自足には慣れてるぜ…
ジャックは純粋故に狂気に呑まれてたりしたら萌えるなーと思いまして…ジャック好きだ

(11/06/18)



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