さかなのおはなし




※ほんのり百合















水が掻き分けられて跳ねる。そんな音をBGMに、今私は大きな鳥かごからはばたいて行く。




「〜♪」




もう歌う事はないだろうこの歌を、離れゆく島に贈る。遠ざかっていく距離は、あの人と私だった。
最後にあの人よりも私の世話を焼いてくれた、自分を騎士と称した、あの子に会えなくて寂しい。だなんて思う。




「……きゃっ」




一陣の風が、一際大きく紙を揺らした。突然だったから、押さえる手が間に合わずに帽子がくるりと空に舞った。
綺麗に螺旋を描いた帽子に、高い位置から手が伸びる。
ツバを掴み引き寄せて、両手に持ち替えて一段下の少女を見下ろす。
帽子の行く末を探す少女と視線が合い、ゆるりと口角が上がった。




「あなた…」

「こんばんは、サカナちゃん」




赤く燃える様な空を背に、帽子を手にする少女に言葉を失う。




「どうして、ここに居るの…?」




微笑んだままの少女は、私が鳥かごの鳥だった時にお世話をしてくれた、その少女だった。
少女は帽子を押さえ付けながら被ると、空いた片手を軸に上のロッジから飛び降りた。




「言ったでしょ?私はサカナちゃんの騎士だから」




着地してすぐに脱いだ帽子を、今度は私にふわりと被せる。
迫る帽子が作る影に目を瞑ると、開いた時にはまるで本物の騎士の様に、私の手を取り跪いていた。




「お姫さまが行くところなら、何処までも一緒に行くよ」




優しく、柔らかい唇が短く手の甲に落とされる。
その動作を見守ると、すっと立ち上がり少し高い位置の瞳と見つめ合う。




「ありがとう…ナマエ」

「いいえ」




お互いにくすりと笑い、リードされる様に指先を掬われる。




「何処へ行きましょうか、お姫さま」

「そうね…魚の惑星なんて、どうかしら」

「それは素敵な」






さかなのおはなし
(魚のお姫さまは愛しい人と引き替えに、騎士と翼を手に入れました)



***

サカナちゃんが可愛すぎた結果です。後悔はしていない
最終回も間近だというのに女の子夢のなさったら…自給自足です

(11/04/02)



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