knew now



うろうろと部室の前を行ったり来たりしている女子が居た。
それは紛れもなく、俺達帝国サッカー部のマネージャーの姿だった。




「何してんだ、マネージャー」

「へ、辺見君…」




相変わらず困ったような表情でこちらを不安げに見る。いや、実際困っているのかも知れないが。




「部室で何かあったのかよ?」

「ううん、違うの…」




じゃあ一体何なんだ。もしかしたら、マネージャーは困っていないのか。
何かを言おうとして閉じる口の動きを見ながら、言葉の続きが出るのを待った。




「チョコを…咲山君に渡そうと思って来たんだけど…やっぱり居たらどうしよう、って思って…」




恥じらいながらも紡がれた言葉に、今日と日にまだチョコを渡すか悩んでいたのかと、ため息が出る。おまえら、一応恋人同士だろうが。




「そんなの、渡せば良いだろ」

「だって咲山君、受け取ってくれるか解らないし…」




嫌いだったらどうしよう、と呟くマネージャーにまたため息が出る。若干苛立ちも募ってきた気がする。




「平気だ平気、あいつがマネージャーの受け取らない筈がない」

「そうかな…」

「そうだそう。自信持て。咲山はマネージャーにベタぼr」



バンッ!!




辺見の台詞の途中、続きを遮るように大きな音を立てて、部室の扉が開かれた。
マネージャーがビク付いたのを横目に、扉を蹴るように現れたのは噂の咲山だった。




「…………(辺見テメェ…)」

「…まぁ、とにかく頑張れ、マネージャー」

「えっ、あ、辺見君…!」




軽く手を振って過ぎ去る辺見を引き止められず、その場にはぎこちない空気と二人が残された。




「あ、あの咲山君……」




またやってしまった、とマスクの下で顔を歪める咲山に、おずおずとさとは小さな小包みを差し出した。




「………」

「これ、バレンタインのチョコなんだけど…い、要らなかったら持って帰るから!えっと、その…!」




赤くなりながら見て分かる位混乱している名前から、視線を手元の小包みへと落とす。
同じように頭の中で言葉が飛び交う中から、ひとつの言葉を掴んで口にする。




「……サンキュ」




そっと小包みを持ち上げれば、驚いた顔でこちらを見る名前と目が合った。
表情が一気に明るくなり、頬に赤みを持って笑った。




「…帰るぞ」
「う、うん…!」




つくづくコイツには甘いな、と頭の片隅で思いながら、連鎖的に赤くなる顔を隠すように歩きだす。
慌てて隣に並んだ名前の手を取って、少し強引に近寄せ確認するように繋ぎ直す。
ちらりと隣を盗み見ると、嬉しそうな表情にまた視線を外した。




(こんな事で、コイツを喜ばせる事が出来るのか)



***

リアタイから摘出その2。
マイナーだけど咲山が好きです


(11/02/14)
(11/04/02)



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