non timing
「いたた……」
どさっとやや乱暴に、フィールド横のベンチへと倒れこむ様に腰をおろす。
ズキズキと痛む右足首を労るようにスパイクを脱いで宙に浮かせれば、その隣で水色の髪がふわりと揺れ落ちた。
「まったく、無理しやがって…」
呆れた様な、困ったような表情でしゃがみ込む風丸は、ため息を吐いてこちらをじっと見た。
「だって…」
「だってじゃないだろ」
反論するか否かの所で、風丸がびしっとそれ以上を封じる。
「必殺技を早く身につけたいのは分かるけど、怪我したら元も子もないだろ」
「…そうだけど……」
確かに風丸の言う通りだが、まだ納得がいかないのか言葉が言い淀んだ。
これ以上何を言っても同じ様な返事しか返ってこないだろうと踏んだ風丸は、話を切り替えて「マネージャーはどうしたんだ?」と尋ねた。
「二人とも、湿布とか氷取りに行ってくれてる」
「そうか…」
風丸がゆっくり頷いた後、数秒の沈黙が流れた。
風丸の視線は赤く腫れた足首に、その足の主の視線は風丸の横顔へと注がれていた。
「……痛そうだな…」
「えっあぁ、うん、まぁ」
ぽつりと呟かれた風丸の言葉に、ドキリと肩を強張らせる。じっと見ていたものだから、急に発せられた言葉への反応がしどろもどろになる。
再び訪れた沈黙で冷静さを取り戻すと、今度はこちらが小さく言葉を呟いた。
「優しいね、風丸は」
「………はっ?」
やわらかなポニーテールを揺らして、勢い良くこちらを振り向く。
頬に赤みがささったその顔はまさに、鳩が豆鉄砲を食らったと表現するのが相応しい様に見えた。
「いや、その…心配してくれるし」
少しばかりオーバーな反応に、照れ臭くて思わず言葉を付け足す。風丸の心臓は、ドクドクと大きく音を鳴らしていた。
「……それは、」
恥ずかしさからか赤が広がる互いの顔に、何か答えねばと風丸は言葉を絞りだした。
「…………大事な仲間、だからな」
不自然な間を取って繋がれた言葉には、偽りはなかった。
「…ありがとう」と俯き気味に礼を述べる声が耳に届いたが、互いに顔を見合わせられないでいた。
「おまたせ!足大丈夫…って」
「どうかしたんですか?二人とも」
「いやっ!何でもないんだ!」
秋と春奈が戻ってきたことにより、一気に恥ずかしさが増してその場を逃げる様にしてグラウンドへと戻る。
春奈が変な風丸さん。と呟いて、不思議そうにその背中を見送った。
「(さっきの…危なかった)」
顔の熱を振り払うように走り、練習の輪に向かう。
――それは、お前が好きだから
「(…なんて、まだ言える訳ないだろ)」
non timing
(大事な仲間、か…それだけでも、十分嬉しいや)
* * *
私は初丸君を絶賛プッシュしています。
初々しいというか、女々しいとかヘタレとかそんな部類に分けられそうな話になっちゃいましたが…
時期的には1期辺りかと思います。ちょっとずつ距離が詰まって行く瞬間みたいな。
次はカッコイイ風丸君が書きたい…!
(10/08/15)