My only HERO!


不良とかそういうキーワードとは無縁に生きていた私は、今まさにその不良と関わってしまっていた。


「あんた、イナズマジャパンの奴だろ?」


ニヤリと意地の悪そうな笑みで、知っている上で問われただろう質問が投げ掛けられた。
ぞろぞろと一緒に居た仲間が、彼を中心に私を取り囲むように散らばった。



「ちょっとツラ、貸してくんねぇ?」



古典的な台詞に肩を強張らせた時、頭ではやけに冷静にここに至までを思い返していた。

まず、私は今夕飯に使う調味料が足りず、至急コンビニまで買い出しに来ていた。
次に、目の前の彼との面識はない…が、その風貌で心当たりならある。
そして私はイナズマジャパンのマネージャー。他のマネージャーよりサッカー経験があるから、響木監督と一緒に飛鷹の秘密練習に付き合ったりしていた。
そしてその飛鷹は、"元"ヤンキー。つまりは、


「…君たち、飛鷹の舎弟?」


コンビニの袋を握り締めたまま、片手を保険のつもりでジャージのポケットに手を入れる。


「へぇ、知ってんのか?なら話がはえーじゃん」



ぐっと距離を縮めて、逃げる暇もなく素早く左腕を捕まれた。



「(しま…っ!)」

「あんた捕まえて、飛鷹サン誘きだす人質(エサ)にしてやるよ」



さっきと同じ顔で、今度は至近距離で口元を歪める。
私がここで逃げられなければ、喧嘩はしないと響木監督と誓った飛鷹に迷惑が掛かってしまう…
それだけは阻止しないと、逃げないととポケットの中の携帯を握り締める。



「今に見てろよ…自分の女が人質なら、飛鷹サンは来ない訳がねぇよなぁ」

「……………は?」



驚きなのかはわからないけれど、ドクンと一回鼓動の音がして治まった。
ぴくりと反応した指先は携帯に触れるだけとなり、思わず力が逃げていた。
気の抜けてしまった声が気に食わなかったのか、同じように気の抜けたような声が再び聞こえた。


「はぁ?今更とぼけようったって無駄だぜ?あんたと飛鷹さんが二人っきりで居るとこ、ちゃーんと見たんだからな」



余裕の歪んだ笑顔で笑う彼を余所に、頭の中では今日までの飛鷹との行動を再生していた。
一緒に居たと言えば…秘密特訓の帰りくらいしか思い当たらない。



「…あ、あれはたぶん帰りが一緒だっただけで…」



なぜか心焦る内心を表す様に、言葉にも影響される。早まる鼓動の訳も分からず、ただ落ち着けと暗示を掛けるだけしか出来なかった。



「何だって良いんだよ、飛鷹サン誘きだせるなら、なッ!」



掴まれていた左腕に走った痛みに我に返り、少年に勢い良く引っ張られる。
負けじと引き寄せる形で抵抗するが、じりじりと呑み込まれるように動いてしまう。
腕が結構痛いと感じ始めた中、何としてでもエサにはならないという意志だけで踏み留まっていた。
しかし男女の差は埋められず、悔しさと諦めで瞳を瞑った、瞬間だった。



「唐子テメェ、その手を離しやがれ!!」



競り合う空気を裂く様な怒声に、はっと目を開く。
頭が声の主を認識すると、力が抜けるように緊張が解ける。
視線を向かわせると、仁王立ち…ではないけれど、それ並みの迫力を従えた飛鷹が睨んでいた。


「…ようやく来たな飛鷹サン…待ちくたびれちゃいましたよ」



その迫力に一瞬硬直が見られたものの、隣の彼…唐子はおどけた素振りで肩を竦めた。だけどそんな彼の余裕すら関係ないのか、飛鷹はそのままこちらへ歩み寄ってくる。


「聞こえなかったか唐子。その手を離せ」



それだけ言うと唐子の空いている方の手をぐいっと引き上げ、見てるこっちも痛くなりそうな程に締め付け上げた。
その痛みに私を捕らえた手が解放され、今度は飛鷹に優しく腕を引かれその腕に収まる。
急な至近距離に再び心臓がはやりだして、しっかりホールドされた飛鷹の体温に意識が向かってしまう。



「………走るぞ」

「え?」


不意にボソリと囁かれた言葉。その意味を熱っぽい頭が理解するより早く、風がぬくもりを奪っていく。
後ろで唐子が何か叫んだりしていたり追っ掛けて来ていたけど、現サッカー選手の飛鷹(と私)からどんどん遠ざかっていく。
巻いたのを確認すると、ペースを緩めて次第に立ち止まる。
さすがに彼の走りに合わせただけに、肩で息をする事になった。


「……っはぁ」

「…急に走って悪かったな。大丈夫か?」



体制を立て直す私に気を使ってくれた飛鷹に、深呼吸をして答える。



「うん…大丈夫…それより」

「「迷惑かけてすまなかった(ごめん!)」」

「………ん?」



見事にハモった言葉に違和感を覚え、視線を上げてみると同じようにきょとんとした飛鷹がこちらを見ていた。



「……何で飛鷹が謝るの?」

「…そりゃ、昔のダチが迷惑かけたからに決まってるだろ」



そっちこそ、謝る必要なんてないだろ。と怪訝そうな視線を送る飛鷹にいやいや、と押し切るように言葉を返した。



「私がすぐに逃げられてれば、こんな迷惑かけなかったし…」


わざわざ助けに来て貰って、と口に出してから、はたと重要な事を思い出す。



「そういえば飛鷹、どうしてあそこに?」



素直に疑問が口から出ただけだが、その質問に飛鷹の肩がビクリと揺れた気がした。



「……お前の帰りが遅いから、様子を見に来ただけだ」



バクバクと存在を主張する心臓を内心押さえ付けて答えを出すが、自然と顔が前を向いて合わせられなかった。
好意があからさまに出てしまっただろうか、と心配を余所に、名前の眉は更に下がった。


「そっか…手間かけてごめんね」

「いや…」


でも、ちゃんと買えたよ。と付け加えられた内容から察するに、どうやら自分が発した意味と違う意味で受け取られたらしい。
少し肩透かしを食らった様な感覚に、おのずと体の緊張が解けた。
それを表すようにため息がひとつ零れ、ゆっくり名前へ顔を向ける。


「…また何かあれば、すぐ連絡しろ」



すぐに駆け付けて、助けてやる。

そんな副音声が聞こえそうな微笑みと温かさが、こちらにまで伝染したみたいだ。





My only HERO!
(彼は私だけの、ヒーローなのです)



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ありきたりな話ですが、不良に絡まれてる所を助ける飛鷹さんはとてつもなくヒーローだと思います。舎弟にして下さい。



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