くちびる温度


―サッカーやろうぜ!



この言葉が全てのきっかけで、全ての結末だった。
今もほら、国境を跨いで円堂にひかれた人が、彼の元へ集ってきた。

長かった様であっという間に過ぎ去った、FFI。
それぞれの故郷へ戻った私たちは、歓迎されつつも元の日常を送っていた。
屋上から空を見上げれば、何処までも限りなく青が広がる。視界に収まりきらない空に、改めて世界の広さを実感する。



「―みんな!どうしてここに!」



微かに聞こえた、円堂の声。
何事かと思ってフェンスに近付き下を覗けば、ついこの間まで同じ地で戦っていた海外のキャプテン達が顔を揃えていた。
それを見た円堂はもちろん驚いていて、もちろん私も驚いた。
ただ円堂は喜びの方が勝っていて、すぐさま一緒にいた壁山と階段を駆け下りて行った。


「…相変わらずだなぁ、円堂」



先生に注意されながらも走る姿を目で追って、くすりと笑いが零れる。



「(でもまぁ、そんな円堂だから良いんだけどね)」


恋とは違う、友愛や淡い憧れを含んだ瞳のまま少女は微笑んだ。
やがてリズム良く近く足音に意識が向かい、少し離れた出入口を振り返る。


「名前、ここに居たのか」

「一郎太」



空とは違った色合いの青い髪を揺らして、すぐ隣まで歩み寄る。
まだ少し呼び慣れない名前に、お互いに少しだけ照れくさかった。



「何してたんだ?」

「うーん…やっぱり、円堂好きだなぁって」

「何だよ、それ」



不機嫌、というより呆れた様な調子で、フェンスに背を預けた風丸が肩を竦めて笑う。



「一郎太だって、円堂好きでしょ?」


疑問を問いつつ同意を求める視線を向ければ、まぁなと答える。結局、二人して円堂が好きなのだ。


「でも、それって恋人としてどうなんだ?」

「平気だよ」


呆れた様に尋ねる風丸に、あっさりと回答する名前。
彼が何が、と言う前に、彼女は自信に満ちた顔で笑った。



「円堂は好きだけど、一郎太は大好き、だから」

「……ったく」



ね?と同意を求める名前に、お前にはかなわないなと呟き、赤くなった顔を片手で覆う。
単純に言葉のランクが上なだけなのに、胸がどうしようもなく締め付けられて嬉しい。



「俺だって…名前の事、大好きだ」



恥ずかしくて逸らしたくなる顔を前に見据えて、お返しとばかりに頬に手を添える。

お互いに気持ちを伝え合ったのなんて告白時以来で、あの時と同じように名前の顔も熱が纏う。
違うのは照れながらも嬉しそうに頷いて、添えた手に擦り寄る位だ。


「……名前」
「なに?」


名前を呼ぶと、ぱちりと目を開き視線がかち合う。
この流れなら不自然じゃないよな、と心の中で問い掛け、頬に添えていない方の手で名前の手を包むように握る。
互いに触れ合う面積が増え、そのままゆっくりと少し屈めば、額が触れそうな位距離が近くなる。



「…っ」



それが何を意図したのか解った名前は少し躊躇いを見せた後、激しく高鳴る心臓を抑えるように瞳を閉じる。

その一連の行動に息を呑んで、繋ぐ手のひらにぴくりと力が入った。
一歩踏み込むように目蓋を下ろしつつ、隙間を埋めるようにと唇へ導かれる。



遠くに聞こえた校庭の賑わいが、遠くなった様な気がした。






くちびる温度
(火照る二人を、一迅の風が冷やかす)



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キスシーンの描写で終わるのが結構好きです。読み切り少女漫画風を目指してみたり




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