反動的な愛情表現


授業の始まる前の休み時間。二年の教室には、周りより背丈の低い二人の後輩が佐久間を急いで呼び出した。


「佐久間先輩!名前先輩が怪我して大変です!」

「……名前が?」

「そうです〜保健室に居ますから、早く行ってください〜」


そう言ったやり取りを交わすや否や、二人…成神と洞面は俺を急かすように背中を押す。
どういった怪我なのか、名前は無事なのかとも聞く暇は与えずに、後輩二人は早く早くと俺を廊下へと押し出す。
あまりにも二人が煩いから、という訳ではないが段々と心に不穏が募り、気付いた時には走りだしていた。


「佐久間さん焦ってたね〜」

「ほっんと、名前先輩の事好きだよな。佐久間先輩」


先輩のあの驚いた顔と言ったら。
と付け足して、二人は口元を緩めてニヤリと笑った。

一方そんな佐久間は、そんな事を言われてるとも知らずに、ただ名前の居る保健室へと走っていた。
周りの教師の「廊下を走るな!」という忠告も、彼の耳には一切届いていない。


怪我、という二文字から連想される状態。足を捻ったのか、腕を痛めたのか、もしかして意識がないのか。
考えれば考える程に思考は悪い方向へと進み、苛立ち、不安、焦燥感が増すばかり。


「(……どのみち、あいつの顔見ないと安心出来ないな)」


我ながら過保護なのか?それとも、恋う相手を思う気持ちとして当然の事なのだろうか?
頭を悩ませる程に無性に恋しくなって、俺は目の前まで来た保健室の扉を邪魔だと言わんばかりに開けた。


「…名前!!」

「うわぁっ!?さっ…佐久間くん?」


ガタン!と大きな音をたてて扉を開けた事に、名前は大きく肩を跳ね上がらせた。
彼女はベッドの上で上半身を起こしたまま恐る恐る扉の方を見ると、目を丸くして彼の名前を呼んだ。
今だに荒々しい呼吸残したまま、早足で名前の座るベッドへと近付く。


「ど、どうしたの佐久間君…?大丈夫?」


オロオロと慌てながらこちらを覗く名前を尻目に、俺はベッドの上に置かれてた彼女の手をがしっと掴んだ。
また名前の肩がビクンと跳ね上がったが、今はどうでも良い。


「…っの馬鹿!それはこっちの台詞だ!!」


再び名前の目が丸く開かれて、若干眉がハの字に変わる。
走った疲れからか、顔を俯かせたまま佐久間は言葉を続けた。


「お前が怪我したって聞いたから…」

「…それで、走ってきてくれたの?」

「……あぁ」


彼女の口から改めて言われると、少し気恥ずかしさが込み上げる。
それを悟られないように、怪我は大丈夫なのか?とゆっくり顔を上げて、名前の顔を見つめる。
名前は少し恥ずかしそうに視線を落として、大丈夫だとゆっくり頷いた。
名前が無事だと分かった途端、激しく揺れていた心がぴたりと止まって、佐久間は良かったと息を吐いた。


「ご、ごめんね。心配かけて…」


彼女が言うには、体育の授業中にボールが頭を直撃したらしいが、大した怪我もなく一応休んでいただけとの事。
佐久間は長いため息をついて、握ったままのさとの手を額に当てて崩れるようにしゃがみ込む。


「本当に…心配かけやがって」

「ご…ごめんなさい」


もしもっと大きな怪我だったら、と心配していた分、訪れる脱力感と安堵感は大きい。
普段ならこんなに長く手を握ることも、思ったことを口にする事もない。…大体が部員に邪魔を入れられていたからな。


「……名前」

「?うん?」


疑問符を飛ばしてきょとんとした名前に、佐久間は素早く膝を伸ばして唇を重ねる。
一回だけ触れた唇を離して、少し上から赤くなったさとを見据える。


「…無事で良かった」


そのまま彼女を確かめるように、頭を抱えて胸に寄せれば、名前も遠慮がちに俺の制服の端を握った。



(心配してくれて、ありがとう)
(…不謹慎だが、こんな事も悪くはない…かもな)



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美人美形が焦る姿が好きです



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