違い探し



「塔子!」

「おう!」


エイリア学園との対決に向けて備えた練習中、風丸から塔子へとパスが回った。
塔子、彼女がチームに加入してから幾分時が過ぎ、今はすっかり馴染んでいる。


「名前!」

「んっ染岡!」


塔子から回ってきたボールを吹雪に回し、吹雪がゴールを決める。


「みんなー休憩よー!」


そこへ、マネージャーの秋がメンバーに休憩を知らせた。個々に返事をしたあと、ぞろぞろとベンチへ集まっていった。


「夏未さん、ドリンクある?」

「ええ、あるわよ」

「ありがと」


夏未からドリンクを受け取り、仲間達の輪からいそいそと外れる。
仲間達から離れた木の下に移動すると、盛大にため息をつく。


「むー…」


木陰にしゃがみ込み、光が零れる樹の葉を見上げる。
ぼーっと思い出されるのは、大好きな彼の顔。笑いかけて、自分の名前を呼んでくれる…名前を…


『名前』


かぁっと思い出しただけでも顔が紅くなる。
夏未にもらったドリンクのキャップを開け、口に運ぶ。


「(おいしい…)」


もくもくと口に広がる味わいを噛み締めて、遠くに見える仲間を眺める。
塔子と円堂が中心になって、賑やかな空気が流れている。


「(円堂達は良いんだよ、ね)」


ざっと仲間達を見回して、そして彼に行き着く。


『塔子!』


先程の光景がよみがえる。名前を呼んで、パスを回す風丸。名前を呼ぶ事は大事、だと思う。
今まで雷門サッカー部に女子部員は自分だけで、塔子が入ったのは嬉しかった。
今まで風丸に名前で呼ばれていたのも私だけだった。

でも、塔子が入ってから違くなった。


私と風丸は付き合ってないから、塔子を名前で呼ばないで欲しいなんて言えない。でも私だけ名前で呼んでくれている辺り、嫌われてはないと思う。

…と言うか皆は塔子を名前で呼んでるのに、風丸だけ名前で呼ばないのは不自然だ。


「(コレって嫉妬、だよね)」


自覚は何となくしていたが、何とも情けない。盛大に肩を落として、またドリンクを口に含む。




「あれ、名前ちゃんは?」


その頃の雷門メンバーサイド。
名前が居ない事に気が付いた秋が、辺りを見回す。


「あら、彼女ならさっきドリンク持って行ったわよ」

「どこ行ったんでしょうか?」

「名字って、いつのまにか居なくなってたりするよな」


キョロキョロとメンバーがあちこちに視線を泳がせる。
が、角度が悪いのか、はたまた陰になっているのか、メンバーは名字に気付かなかった。


「俺、探してくるよ」


そんな中、風丸が輪を抜けて名前を探しに足を進めた。


「(塔子に嫉妬とか…なんか情けない。)」


その名前は、相変わらず肩を落として膝に置いてあるドリンクボトルを眺め頭を働かせていた。


「(塔子は円堂が好きなはずなのに。でも風丸の方はそうじゃなかったりするのかなぁ…わぁ一方通行…)」


ぐるぐると考えれば考えるほど、だんだん悪い結論になっていく。


「はぁー…」

「こんな所に居たのか」

「かっ風丸…!?」


バッと顔を上げれば、本人風丸が自分を見下ろしていた。


「どうしたんだ、こんな所で?」

「別に。皆の仲の良さを見てた」


まさか嫉妬していました、とは言えない。

視線を遠くに見える皆に移す。
近くに風丸がいる。まともに顔なんて見られない。


「…隣、良いか?」


少しの沈黙を挟んで、風丸が尋ねてきた。
私は顔もみずに「どうぞ」と短く返した。我ながらもっと良い反応は出来ないのだろうか。


「……」

「………」



再びの無言。そして沈黙を破ったのは、また風丸だった。



「…あのさ、名前。最近俺の事避けてないか?」

「………は?」



1テンポ遅れて、予想もしなかった言葉に風丸の方へ顔を向ける。
風丸は真剣に、こちらを見据えていた。



「最近、顔合わせてもすぐどっか行ったり、みんなと居るときとかも、俺から離れてないか?」

「…………」



そういえば、そうだったかも知れない。
風丸が塔子の名前を呼ぶのを聞きたくなくて、自然と彼を避けていたかもしれない。


「俺、名前になにか悪いことしたか?」



眉を下げて真剣に尋ねる風丸に、申し訳ない気持ちになった。



「…風丸は悪くないよ、全然。全部私のせいだから」



自虐気味に笑い掛ける。風丸は頭に?を浮かべて「どういう事だ?」と聞いてきた。



「勝手に塔子に嫉妬して、勝手に風丸を避けてた。それだけ」



全部私の勝手、と付け加えて、風丸を見る。



「変な心配かけてごめん。塔子も名前で呼ばれてるの、悔しかったんだ。前までは私だけが名前で呼ばれてたのにって。」


独白の様にぽつぽつと私の想いを呟く。
風丸の中で、私は特別じゃなかったのかって、思って。

そこまで言い終えて、完全に下を向く。いくらなんでも告白しすぎたかな。顔が熱くなってきた。また迷惑かけたらどうしよう。


「…名前は、俺の中で特別だよ。それは今も変わらない」


言葉を頭が理解する前に、ひんやりとした手が頬に当たった。
顔を上げると、視界が何かに埋め尽くされた。唇が何かに押さえられて、動かない。

唇から何かが離れて、目の前の風丸の瞳と目が合った。
ポカーンと意識が飛んで、はっと我に帰る。


「い…今…」


キス、された?風丸に?


「…名前は」


ゆっくりと風丸の口が動かされる。未だぼーっとしている頭に、風丸の言葉が染み渡る。


「名前は、塔子を名前で呼ぶことで、俺の中で塔子も特別な人間になったんじゃないかって思ったんだろ?」


恥ずかしながらゆっくりと頷くと、風丸の表情が和らいだ。


「なら、コレで解決だな」

「?」


ふっと笑った風丸の、言葉の意味が理解できず、首を傾げる。


「塔子にはこんな事しないけど、名前にはした。違い、分かるよな?」





(そう言った風丸の顔が、格好よすぎてズルいと思った)






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