DREAMERS
奏でる、歌う、それが私の生きる意味。
トントン、と軽快な音が鳴る一人暮らし用の狭いリビング。音源は私のマスターが調理中のキッチンからだ。
マスターが自分の食事を作っている間、私は"私達"がたくさんいる動画を眺めていた。
マスターが「作業用のBGMなのよ」と言っていた。PCの画面には"私"が描かれたものと、"私"が歌っている曲の動画と、コメントが流れていた。
「(再生数…いち、じゅう、ひゃく、せん、まん…)」
絶えることのないコメントと、数字が並んだ再生数。
どれも"私でない私"が得たもの。
それに比べて私のマスターが作り、私が歌った曲は行き止まっている。
どうして同じ私、巡音ルカなのにこんなに差が出るのだろう。
私のマスターの曲のセンスは良いと言える。調教は上の下位。私も気に入ってる、なのに…
「…か…ルカ!」
「!」
「どうかしたの?」
はっとマスターの声で周りの景色が目に映る。すぐ隣にはPCを覗き込むマスターが居た。
「この歌好きなのよねー。調教もしっかりしてるし、歌詞も素敵で」
良いわーとハートを飛ばしご満悦気味なマスター。
裏腹に私は、怒りとも悲しみともとれない想いが込み上げてきた。
「…マスター。貴方は、悔しくないのかしら?
同じ"私"なのに何でこう再生数が違うのか、とか、何でもっと評価されないのか、とか」
ルカは次第に俯き、手を握り締めた。
「なんでそう、平然として居られるのよ…!」
最後の方は声が震えた。しんとした空気が私たちを包んだのが解る。
だけど次には、マスターに抱き締められたとわかった。
「ごめんルカ。ルカがそんな風に思ってるなんて解らなかった」
ルカはいつでもポーカーフェイスだもんねーと、私の頭をぽんぽんと撫でる。
「私ね、自分で言うのもアレだけど曲に自信持って作ってる。だから、何時か殿堂入り出来るって思ってる。頑張ればミリオン…はさすがに厳しいかなぁ」
あははと苦笑気味に話すマスターは、私と一旦距離を置いてまっすぐ私を見た。
「だからルカはそんなに気にしなくて良いの!私のルカなんだから自信持って!」
ね!と笑う貴方に、涙腺崩壊ってやつみたいです。
DREAMERS
(夢見る貴方に幸あれ!)
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私の中のルカさんプライドが高いイメージ。色々考えたりするけど、誰にも言えなくて一人で抱え込む様な。
マスターが男前になっていて書いてて驚きましたです