兄貴分



「…………」


なぜ自分はこんな所に居るのか。
下に広がる町並みを眺め、そう問いたくなった。


「…(降りれない…)」


死武専内のどこか。ただ今絶賛困り中の少女が居た。
少女はぼーっと足元に広がる風景を眺め、傍からみればなんら困った様子にはみえない。

しかし、だからこそ困っていた。


「(どうやって降りよう…)」


段差を飛び越え降りた先は死武専の外壁についている角のような場所。
手っ取り早く一階に外から降りようとしたのが間違いだった。そう思うが時は既に遅かった。


「(仕方ない…誰か来るの待つかな…)」


諦めの表情を浮かべて空を眺める。白い雲が綺麗だ。
すると、下から声が聞こえてきた。


「おーいナマエじゃねぇか。そんな所でなにやってんだよー」

「…ブラック☆スター」

「あっもしかして俺様より目立とうってのか!?ちくしょー待ってろ今すぐ行ってやるからな!!」

「………」


声の主は死武専イチの目立ちたがり屋で一応幼馴染のブラック☆スターだった。
何か少し間違った解釈をした様だが、こっちまで来てくれるらしい。これで下に降りられる、と思った。


「ひゃっほう俺様一番!!」


…しかしブラック☆スターは持ち前の運動神経で、いつのまにか自分より上の位置に立っていた。


「どうしたーナマエ?お前も俺様のBIGさにビビってんのか?まぁ無理はないな!」


ひゃははは!と笑うブラック☆スターに唖然としつつ、声は届きそうにないので視線で訴えてみる。
視線に気が付いたのかブラック☆スターは笑うのを止め、ナマエの隣まで降りてきた。


「ん?なんだお前何時もとなんか違うな?なんかあったのか?」

「降りれなくなった」


すっぱりと言えばブラック☆スターはきょとんとした顔の後、にかっと元気のいい笑顔になった。


「なーんだそんな事か!ならこの俺様に任しとけ!!」


どんと胸板を叩くブラック☆スターはほらよ、とナマエに背を向けてしゃがみこんだ。


「……?」

「ほら、乗れよ。下まで連れてってやる」


無言のままナマエはおずおずとブラック☆スターの背中に乗り、彼の前で腕を組む。


「お、お前軽いなー。ちゃんと飯食ってんのか?」

「…食べてる」

「そっかー?んじゃ行くぜ!」


ダンッと勢いを付けて飛び降りるブラック☆スターに驚きを隠せないナマエ。
風を切り、今度は着地の音が地面に響いた。


「ほら、着いたぜ」

「………」


ナマエを背中から下ろすブラック☆スター。彼女の心臓はいつも以上に大きく脈をうっていた。


「(こ…恐かった)」


顔を青くしているナマエの気持ちを読み取ったのかブラック☆スターは「恐かったか?」と声をかけた。
それに声は出さずこくんと頷く。


「まぁお前は俺様と違って超インドアの運動下手だしな!仕方ねぇだろ!」


がしがしと頭を撫でる彼に果たして悪気はあるのだろうか。


「あ、…ありがとう。…運んでくれて」


気恥ずかしいのか視線を落としたナマエに先程のような笑顔になるブラック☆スター。


「なーに大した事じゃねぇよ!まぁ、困ってる時は俺様に頼れよな!お前なら何時でも助けてやるからよ!」

「…うん」


少しだけ微笑んだナマエにブラック☆スターもまた機嫌を良くし、また彼女の頭をがしがしと撫でた。


「ブラック☆スター…なんかお兄さんみたい」

「お、おぉ、そうか…(なんか微妙に納得いかねぇ気が…)」



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姫抱きよりおんぶ派です



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