プチ黒な彼
満月の輝く夜中、明日はウォーゲームのない休日。
ひっそりと宴から抜け出していたナマエは皆が寝静まった頃に城へ戻っていた。
「(まさか道に迷うだなんて思ってなかった…)」
アンダータを持っていないナマエは見かけた黒猫を追って森に迷い込み、ようやく城に帰ってきていたのだった。
足音を響かせないようにゆっくりと足を進め、自室へと歩いていた。
「随分遅かったな?」
「うぐっ」
カツ、と靴をならして近付いてきた声の主に、自然と肩がびくついた。
そろり、と苦笑いで振り向けば少し機嫌の悪そうなアルヴィスが立っていた。
「あ、アルヴィス…」
「何処へ行っていた?」
きっぱりと有無を言わせない口調で問いただされる。ナマエはアルヴィスから視線を外し素直に答えた。
「…はぁ。…ナマエが無事なら良いさ」
ため息混じりに返ってきた言葉に顔を上げてアルヴィスを見る。
やっぱり優しいな、と思うとありがとうとお礼を告げた。
「心配したんだからな」
ふっと笑うアルヴィスはあまり心配掛けないでくれ、と目を伏せた。
「ごめんなさい…」
しゅんとなるナマエにアルヴィスは少し微笑み、カツンと靴音をたてて彼女に一歩近付いた。
「…?」
「…目、閉じて」
ふわりと頬に手を添えられ、言われた通りに目を瞑った。
「(もしかして…き、キス…!?)」
考えた途端に顔の熱が上がるが、アルヴィスがゆっくりと近付いてくる感じが伝わり、きゅっと目を強く瞑った。
…こつん。
「…え?」
唇に来るべき感覚は来ず、代わりに額と鼻先に何かがあたった感覚がした。
驚いて目を開けば息がかかる程近くにいたアルヴィスが元の姿勢に戻る姿が見えた。
「心配掛けた罰だ」
さらりと言われたアルヴィスの言葉に未だ思考は停止中。
はっと我に帰れば再び火照りだす頬に手をあてて冷まそうとする。
「キスされるかと思ったのか?」
にこり、と効果音が付きそうな素敵笑顔なのだが、今はうっすらと黒い何かが纏っている。
「そ、れは…っ!」
真っ赤になり言葉がしどろもどろになるナマエに対しアルヴィスは爽やかな笑顔。
そして何を思ったか、ナマエの腕を引き寄せ自分の腕に閉じ込めた。
「えっアル!?」
「…可愛い」
ぼそっと呟かれた言葉に、ナマエは更にふしゅーと湯気をだしそうな位赤くなっていたと。
(心臓が、心臓がもたない…!)
(反応が本当に面白いな…)
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黒いアルヴィスも好きです