電話が来たのはお風呂にも入り、明日の準備も万端に整えたところだった。
ケータイの画面は彼氏である風丸一郎太からの電話を告げている。同棲中の彼は、ただ今友人と酒を飲みに行っていて留守だ。
さては迎えの要請だな。断る気満々で電話に出た私は完全に出鼻を挫かれるのだった。
「もしもし、」
『あ。あんた風丸クンの彼女か?』
聞いたことのない声に、一瞬戸惑う。あれ、一郎太って書いてたよね。
「え、と。はい、そうですが。」
『今風丸クン酔いつぶれててよぉ、アンタを呼べってしつけぇんだよ。』
あからさまに不機嫌そうな声を出され恐縮する。いや、しかしその前にあんた誰だよ。
「すみません。迎えにいきます。車で」
『そうしてくれると助かる。場所は…』
「了解しました。それで、あなた誰ですか。」


電話の主は不動という男性だった。
彼らのいる居酒屋は車でほんの数分の所にある。どうやら店外に出ていてくれるらしい。
目的地に着くと、店先にふたりのやたらと目を引く青年がいた。
「なまえー」
「だぁかぁらぁ、俺はなまえじゃねぇっつの!」
「なまえ、なんか固い…」
「だからお前の彼女じゃねぇ!」
なんか、地獄絵図のようだった。ベロンベロンに酔っ払い、不動さんに絡み付く一郎太とかなり不快そうな不動さん。がたいのいい男達のそれは目に優しくない。私は早急に不動さんの救出にむかった。

「不動さんですか?」
「あ?あぁアンタが風丸クンの」
「すみません、迷惑かけたみたいで。」
「かなり迷惑。さっさと引き取ってくれ。」
デスヨネーと一郎太の肩を引っ張る。
「一郎太、帰るよ」
「ん、あれ、なまえ」
「そうですなまえです。」
そういうやいなや一郎太は飛びつくように抱きついてきた。
誰よこいつ。
「んじゃ、確かに渡したから」
そう言うと不動さんは一目散に帰っていった。ここまで来たら車まで運ぶの手伝ってくれてもいいんじゃないかな!
「一郎太ー重いよー」
「なまえ、好きー」
「…はいはい。」
「なまえは?ヒック、俺のこと好きじゃない?」
「好きだよ。」
「じゃあ、結婚して」
「はいはい。」
「指輪も、買ってあるからー。」
「は?」
「俺の、練習カバンに。入ってるんですー」

マジだった。
ちなみに不動さんはプロポーズの仕方の相談を受けていたらしい。完全に無駄足だった彼に、一郎太が右ストレートを食らって左頬を腫らして帰って来たのは次の日だ。




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