駅の近くにある喫茶店で、女の子と待ち合わせをしていた。
ピンクに近い色のツインテールにアーモンド型の黒い瞳を持ったかわいい子だ。
ミニのプリーツスカートに茶色のブレザーはいかにもいまどきの女子高生らしい。私もほんの数年前は彼女の仲間だったのかと思うと懐かしいやらなにやら様々な感情がめぐる。
「なまえお姉ちゃん、久しぶり。」
「うん、久しぶり夕香ちゃん。」
私はアイスコーヒー、夕香ちゃんはココアを頼む。落ち着いたクラシックが耳に入ってくる。
「最近、修也くんどう?」
「変わんないよ。スッゴくなまえちゃんに会いたそうだよ。」
「そっか。忘れられてはいないんだね。」
「忘れるわけないよ!お兄ちゃん、なまえちゃんのこと、大好きなんだから。」
「そうだったら嬉しいな。」
運ばれてきたコーヒーを飲み、一端落ち着く。夕香ちゃんはなにか言いたそうにしながらもココアに口を付けた。
「お兄ちゃんに、会いたくないの?」
「…そりゃ会いたいよ。でも、修也くんからしばらく会えないって、言ったんだもの。きっと会えるようになったら会いに来てくれるから。」夕香ちゃんはやはりもどかしそうに私を見つめるのだった。
○
リビングでぼんやりしながらテレビを見ているとお兄ちゃんが帰ってきた。
下ろした髪とピアスが未だに見慣れない。多分見慣れることは一生ないだろう。
疲れたようにソファーに埋まり、前髪をかきあげる。
「今日、なまえお姉ちゃんに会ってきたよ。」
なまえちゃんの名前にピクリと反応を示すお兄ちゃんに、私はなんだか悲しくなった。
「お兄ちゃん変わらないよ、スッゴくなまえちゃんに会いたそうって言ったら、忘れられてなくて良かったって。」
そう言うとお兄ちゃんは目に腕を乗せる。悔しそうに歯を食いしばる姿をかなうことならなまえちゃんに見せてあげたい。
「忘れるわけ、ないだろ」
低く、呻くような声は誰に言うでもなく、空気に霧散していく。
「なまえちゃんに、会いに行かないの?」
「…」
「なまえちゃん、お兄ちゃんが会いに来てくれるの待ってたよ?」
「…まだ、会えない。」
「別の人にとられちゃうしれないのに?」「…それがなまえの決めたことなら。」
「嘘つき。本当はとられたくないどころか、他の人に見せたくないくらい好きなくせに!」
「あぁ好きだよ。ほかの男と話していると腸が煮えくり返る。いっそ監禁して俺しか見えないようにしたい。けど。無理だ…」
俯いたお兄ちゃんの背中は、ずっと見てきたそれよりずっとずっと小さくて。彼はただ、一人の女の人が好きなだけなのに、どうして上手くいかないのだろう。
「…臆病者。」