Raison d'être | ナノ


▼ 真希の独白

 その日は、羽佐間二級呪術師と共に任務に当たった。初めて会った彼女はにこやかで人当たりよく、そしてどこか掴み所がない。

 夜半に想定に反した膨大な数の呪霊に舌打ちしながら祓い終え、相棒の加勢に向かうと笑った羽佐間さんと現地で別れた。タフだな、と感心しながらぐったりと補助監督の運転に揺られ帰路に着く。車内は嫌な沈黙だ。禪院家の落ちこぼれという噂をよく知った男であることは知っていた。女二人が宛てがわれた今回の任務が妙に重かったのも、何らかの作為が働いていたのかもしれないし、たまたまかもしれない。
 羽佐間さんの噂はいくつか耳にしていた。帳はやたらに器用だが、非力な祓えぬ術式を持つ女。優しい女性。所詮二十歳過ぎるまで埋もれていた元一般人。自身を上手く使っている丶丶丶丶丶呪術師七海を相棒と呼ぶ図々しい補助術士。マイペース。呪詛師を狩り笑む狂人。殲滅戦の鬼。
 てんでばらばらな評価の果ては、概ね「七海建人は有能である」に着地し話がすり替わる。ニコイチかよ、と同じ話を聞いたパンダが指摘していたのは記憶に新しい。

 そんな羽佐間さんが一部から心底嫌われてる理由が今日、分かった。もうルートが作られてんだよ。術式の精度と読みと、速度。箱──彼女に言わせると結界──を作るという単純な術式で、それは神出鬼没。直接祓いもせず、術式で指示だけしてくる
 アイツらが不快に思うわけだ、とすぐに納得がいった。共闘するうち、指示はよりシビアになっていく。能力の限界を強いてくる。届くギリギリに作り出されるルート。息付く間もなく次へ向かわされる。果たしてそのルートが正しいのかなんて考える時間など与えられない。背中を預ける安心よりも、のしかかるプレッシャーの方が勝る。
 終盤で呪霊への踏み出せなかった一歩を見るや私を保護する結界が増え、懇切丁寧なお膳立てを披露された。動きと反撃を封じられた呪霊を何も考えず斬る、ただそれだけの作業。無能扱いのようで、しかし、身体が動かなかったのも事実だ。己の力不足に下唇を噛んだ。『真希ちゃんが斬ってくれて助かったよ。ありがとう』なんて笑顔の皮肉まで着いてくる始末。
「……アレに平然と合わせ続けられる七海さん、バケモンだな」
 一級という肩書きへの道程の険しさを痛感させられ、小さく息をつく。帰ったら鍛えなおそう、と決意を新たに瞼を閉じる。



 数度の同行を経て、あれは本当にただの感謝だったと気付いた。

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