題名通りです、閲覧は自己責任でお願いします。
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朝。
重たい頭、二日酔いの身体。
求む、水。
俺は今、とあるマンションの一室の扉の前にいた。in新宿。
勘の好い方はもうお気づきだろう、要するに臨也の家の前だ。
水をくれ。
今日は喧嘩をしに来た訳ではないので、平和的にチャイムを押す(オートロックのドアは面倒だから破壊したが)。
……………。
応答無し。
しかし俺には解る、ここはノミ蟲臭い。つまり居留守だ。
うっすらその輪郭を強調し始めた額の血管を抑えながらもう一度チャイムを鳴らした。
……………。
ブチッ
考えるよりも先に身体――脚が動いて、見るからに高級そうな扉を蹴破った。畜生、また暴力をふるわせやがったな…!
「臨也くーん、遊びましょー…!」
「やっぱり君か、シズちゃん…」
奥から覗いたのは、柳眉を歪めながらも口許には余裕を思わせる笑みを浮かべた男。艶やかな黒髪、涼しげな表情、端正な顔立ちは正に眉目秀麗だと誰かが言っていた。胸糞悪い。
「居留守とは姑息な真似しやがって、素直に出て来れば好いものをなぁ?」
「どちらにしたって君はドアを蹴破るんだから、無駄な労力を費やすのはやめにしたんだ」
流暢に並べられる言語を聞いている内にぐ、とかたく握っていた拳に気付き頭を振る。駄目だ駄目だ。
「……今日は喧嘩しに来た訳じゃねえんだよ、だから黙りやがれ」
「は?」
「取り敢えず、邪魔すんぞ」
「え、何しに来た訳」
流石に靴は脱いでから臨也宅へと足を踏み入れる。ノミ蟲臭さが一層増して頭がふらりと揺れた。
「何しにっつーか、…水寄越せ。」
あからさまに怪訝そうな視線で上から下まで見られた、チッ。殴ろうかと身構えた左手に無機質な音が聞こえる。ビニール袋の擦れる五月蝿い音。
「…あ、あと包丁も一緒に寄越せ」
「俺が君にそんな凶器を素直に渡すとでも?」
「これ切るんだよ」
ビニール袋を差し出すと不思議そうにそれを受け取り、中身を見る臨也。何これ、と疑問符を浮かべている。
「何か、貰った。果物らしい」
「……へえ、じゃあ俺が切ってあげるよ」
掌に乗せられた奇抜な色の果実を彼方此方から眺めながら台所へと下がったノミ蟲。
何だか新婚気分である、いやいや気色悪いやめろ殺すぞ。昨晩のアルコールがまだ残っているらしい、ふざけやがって畜生。
「はい、シズちゃん」
「……おう」
涼しげな声に顔を上げると目の前には皿に盛られた不格好で不揃いな一口サイズへと変貌を遂げた果実。その内の一つを摘んで口に運ぶ。
臨也に見守られて咀嚼、咀嚼、咀嚼。
「どう?シズちゃん」
「………おえ、まっず」
口内に広がるのはおよそ果実とは言えない不思議な味。何だか腹が立ってきた、不味すぎて騙された気分だ。つーかこの果物はどうやって手に入れたんだったか…昨晩トムさんと飲みに行った時に……嗚呼もう忘れた。
「不味いんだ、じゃあ俺要らない」
皿を目線の高さまで持ち上げる臨也の中指に血が滲んで居るのが見えた。ノミ蟲の手首を掴んで引き寄せる、包丁で切ったのか?
「臨也、この傷」
「ッあん…、や…っ」
目前の唇から零れ出たのは甘ったるい声。それと同時に手の中の皿が滑り落ちて割れ、床に破片と果実が散らばった。
ゾクリ、全身が粟立つ感覚。
「は?何気色悪い事してやがる」
「駄、目っ…離せ、ァあ…ッん」
俺の事をからかっているのかと思ったが、臨也の頬は紅潮していて瞳はとろんと蕩けて居た。試しにこいつの手を離した。
「おい、ノミ蟲」
「……シズちゃん、今何かした?意味解んないんだけど」
「は?それはこっちの台詞だっつの」
先程俺が掴んだ方の手首をあちこち捻り感覚を確かめる臨也の肩に触れる。
「やァ…ッシズ、ちゃ…んンっ」
……?
俺が、こいつに触れるとこうなるのか?
「ひ、…ァあっ…離せ、てば…ッ!」
だったら。
「……離すかよ」
その身体を壊さないよう注意を払いながら抱き寄せた。腕の中にすっぽり収まるその姿に何とも言えぬ優越感。
「シ、…ッちゃ……や、駄目ぇ…っ」
熱を孕んだ身体に、震える声。表情を窺うと顔を背けられたが一瞬見えた瞳には薄く涙の膜が張っていた。
何と無く、違和感。
臨也の身体の熱が徐々に俺へと移ってくるような、まあ何と言うか。
これが欲情か、と言うか。
自覚をしたら後は早い。相手がノミ蟲だとか俺が世界で一番嫌いな野郎だとかは終わってから考えれば好い。
とにかく今はこの熱をおさめる事が最優先だ。
「……臨也。まあ何だ、許せ」
床に散らばる皿の破片を踏んで怪我でもしないよう注意しながら臨也を抱きかかえ寝室へ運びベッドの上に荒く投げる。
「え、あッやめ…っ…ァあ!」
*
「という夢を見たから正夢にしようと思うんだ、臨也」
「黙れ本気で殺すぞ」
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すみません、閃かなかったので夢オチに逃げました。(自白)
アンアンの実の能力は、触れた相手を喘がせる的なあれです。