「――っ離せ!」
声を荒げ、咄嗟に飛び出た拳に襲いかかってきた男の一人がよろめいた。
その隙に脱出を試みたが数には勝てず、すぐに残りの男達に腕を強く掴まれそれは叶わない。
男達の下卑た笑い声が薄暗がりの中で絶え間無く響く。
表通りから大分離れたこの場所では助けを求めようとも、叫んでもこの声は届かないだろう。自分の浅はかな行為を後悔した。
先程告げたように、金など持っていなかった。
仲間共用のガルドは最年長であるローエンに管理を任せており、もしもの時の為に無駄な金銭は持ち歩かないようにしている。
一文無しだからといって、無理やり路地裏まで連れ込むような連中が何もせずに帰してくれるとは考え難い。
ジュードが恐れていた事は屈服してもなお止まることを知らない暴力だった。許しを請うても骨まで折られるような。
しかし男達が求めているのは金ではないと言う。言動からして敵の追手でもないようだった。
金以外に何の為に自分が取り押さえられているのか理解出来ないジュードは戸惑い、恐怖に震えながら男達の次の行動を待つ事しか出来なかった。
引かれるままふらふらと立ち上がると、両腕は背後の男に強く掴み締められる。脱出は相変わらず叶いそうにない。
依然暗い路地裏では目が慣れてきてもその表情は見えないが、残りの男達の視線が全身に注がれているのが分かった。
纏わりつくような視線に身動くと、不意に伸びてきた手が着込まれた黒い上着を引き剥がし始めた。
その行為の意味を理解しかねて首を傾げたが、身体をやたら撫で回しながら次に白い中着に手がかかった瞬間ジュードは察知した。そのまま慌てて正面の男へ訴える。
「あの、僕は男です!」
声は情けなくも震えていた。
しかし勘違いとなれば、この男達にとってもあまり気分の良いものではないはずである。
中性的な容貌や変声期を迎えてもあまり変わらない声のせいか、今までも女性に間違えられることは少なくはなかった。
その度に勘違いした者は気まずそうな表情や何故か残念そうな表情を浮かべていたが、訂正後はちゃんと男性として扱ってくれた。
しかし正面の男の動きは止まらない。
それどころか周りの男達の腕が伸び、何本もの手が腰や太腿を大胆に撫で回し始める。
中着のチャックを下ろされ晒された白い胸元にも男の骨張った手が這い、柔らかく赤い芽の端を冷たい指先が掠める。
ぞくりと全身を巡った嫌悪感にジュードは焦り再び正面の男へ訴えた。
「っ、だから僕は!」
「知ってる」
「…え」
「ちゃんと、知ってるよ」
耳元で囁かれた笑いを含んだ声にジュードは耳を疑った。
そういえばここに連れてきた群青色の上着の男は自分を男だと知っているはずだった。
だとすれば同性だと分かっていてこんな路地裏に導いたことになる。それがジュードには理解しかねた。
「だから、最初から男が目的だって言ってるでしょうよ」
「ど、どうして―――ひ、やぁっ!?」
突然下腹部から巡った刺激にジュードは思わず声をあげた。
ゆっくりと視線を落とすと、一人の男の大きな手が股間部に衣服の上から触れている。
偶然触れてしまったのではないと理解したのは、その手が離れるどころか服の下に隠れたものを探るように動き始めたからだった。
「っあ、や、やめ」
輪郭を確認するような揉みしだく手つきに腰が震える。
身を捩って嫌がれば嫌がるほど男達は楽しそうに顔を歪め、全身を弄る手の動きは激しさを増していく。
上着も中着も取り払われ、白い肌の上を男達の手が直接蹂躙し始めた。
完全に晒された胸の飾りは掠めるだけの動きから摘み擦る動きで責め立てられる。
「んっあ…ひぅ、やだ、嫌だ…!」
「あれ、もしかしてこういう経験無いの」
「15歳だって言ってたけど」
首を振って嫌がるジュードの姿に正面の男が首を傾げて呟くと、群青色の上着の男がにたりと笑って先程得た情報を報告する。
この場所に着くまで朗らかに会話していたあの時、支障は特に無いであろうと年齢まで明かしてしまっていた。
明かされた情報に男達は歓喜の声を上げて再び腰や胸元を弄り、全く経験の無い少年の初々しい反応を楽しんだ。
「じゃあお兄さん達がイイ事いっぱい教えてあげるからな」
「嫌、そんなのいらな…!っあぁ…!」
「ほら遠慮しないで」
宥めるような優しげな声とは裏腹に男の手は片方の胸の飾りを強く摘み、びくりと跳ねた華奢な身体を機嫌良く眺めた。
「ジュード君はここが善いの?」
「ちが、いやだ…!やめて、助けて」
経験の無いまっさらな少年の純潔をこの手で散らすことが出来る――それだけで男達は高揚し、少年の気持ちを汲もうなど微塵も思っていない。
そもそも強姦者である男達が、襲う相手の事を考えるなど毛頭無い。自分達の欲を満たす事さえ出来ればどうでも良かった。
困惑しながら懇願するジュードに手を差し伸べる者がここにいるはずはなかった。
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