「馬鹿」
ジュードはベッドに横になるアルヴィンを見つめて言った。
そうして更に口を開いた。
「馬鹿だよ。アルヴィンのばかばかばか!」
「そんな何回も馬鹿呼ばわりしなくたっていいだろっ!」
寝たままのアルヴィンが反論するが、ジュードも負けじと言葉を返す。
「馬鹿じゃなきゃこんな真似しないよ!」
ジュードはそっとアルヴィンの肩に手を伸ばして撫でた。
傷はすっかり塞がっていたが、肩から胸にまで裂けた服についた血がその傷の深さを示していた。
「僕とエリーゼとレイアの3人がかりでやっと塞がったんだよ!」
「…その節はどうも世話になりました」
「しかも、僕を…庇って、なんて…っ」
背後から迫る魔物の攻撃に気づかずにいたジュードを、アルヴィンは咄嗟に庇ったのだ。
「…庇わなきゃ、お前が大怪我してただろ」
俯くジュードに、アルヴィンはため息をつく。
「…馬鹿」
「せっかくかばったんだから、礼の一言くらい言ってくれてもいいと思うんだが、優等生くん?」
「だから馬鹿なんだよ!」
ジュードは声を荒げた。
詠唱中のエリーゼやミラを守るために前衛へ行った自分が、アルヴィンにかばわれるなんて。
「どうして、庇ったの…っ!」
「ジュード…、…っ!」
無理矢理起き上がったアルヴィンは、ジュードを呼んだ。
「!まだ起きちゃだめだよっ…!」
慌ててアルヴィンを制止しようと近寄るジュード。
「アルヴィン…ッ」
気づくと、その彼の腕の中にいた。
包まれた体ごしに伝わる体温、そして鼓動に、ジュードはアルヴィンが生きていることを実感する。
「あのまま、お前が攻撃を受けてたら…お前は死んでいたかもしれないだろ」
「だからって…っ…アルヴィンが死にかけたじゃないか…っ」
自分を庇って、魔物の攻撃を受け、血を吹き出ながら倒れるアルヴィンの姿を見た瞬間、ジュードは、血の気が引いた。
治療しても、傷が塞がっても、何度呼んでも目を覚まさなかった。
このまま、ずっと目を覚まさないんじゃないかと、不安と恐怖に駆られた。
あんな想いは、もうしたくない。
「…お前が怪我してたら、俺は助けられなかった自分をきっと軽蔑したぜ?」
ジュードは思わず言葉に詰まった。
きっと自分も同じことを思っただろうと感じたからだ。
自分がアルヴィンを守りたいと思ったように、アルヴィンもまたジュードを守りたいと思っているのだと。
それは知っている。
でも。
「だけど、僕は……アルヴィンが怪我するのを見るは嫌だよ」
「頑固だねぇ」
アルヴィンは、自分の胸に収めたジュードの頭を優しく撫でた。
ジュードは、されるまま、アルヴィンの胸に頬をつける。
「だって僕は、ただ守られるだけなんて嫌なんだ。自分から前衛に出たのに、役割も果たせないで…こんな…」
「難しく考えんなよ……それに依頼主を守るのも傭兵の仕事だからな。」
アルヴィンはそっとジュードの髪を撫でた。
「お前に庇われちゃ、年上の威厳ってものがないだろ?」
「……馬鹿」
「いいよ、馬鹿でも。…お前を守れりゃ、それでいい」
そう言って、アルヴィンは笑った。
ジュードはアルヴィンの背中に腕を回して、きゅ、と抱きしめた。
「馬鹿だよアルヴィンは。ほんとに馬鹿」
「おたくだって人のことは言えないと思うけどな」
アルヴィンの大きな手が背中を撫でる。
その心地よさにジュード思わず目を細めた。
「……アルヴィンを失いたくないだけなんだ」
「それは俺も同じだっての」
2人とも同じ事を思っている。
そして、悔しいことにアルヴィンの方が自分より強くて、大人で、自分が守るより先に守られてしまう。
アルヴィンに守られるのが嫌なわけではないけれど、どうせなら一緒に戦っていたい。
だから。
「……もっと強くなりたい」
ジュードは顔を上げてアルヴィンを見た。
「もっと強くなって、みんなやアルヴィンの背中を守れるくらいになりたい」
ジュードの言葉に、アルヴィンは笑った。
「おぅ、期待してるぜ、青少年」
もう、十分なくらいだけどな、と背伸びをして大人びている少年には告げなかったけれど。
アルヴィンは、ジュードの額にそっと口付ける。
柔らかな感触にジュードが目を細めると、そのまま唇に口付けた。
暖かな感触。
伝わる熱。
これを失わないためなら。
ジュードは目を閉じてアルヴィンを感じた。
『emerald clover』ゆずりは様より相互記念に頂きました!
「怪我ネタでアルジュ」というリクエストにお応え頂きとても嬉しいです…!怪我ネタ美味しいですごちそうさまでした!
お互いに相手を守りたい気持ちでいっぱいいっぱいなのが悶えます。可愛いです本当に早く結婚すれば良いのに…(´Д`*)
ゆずりは様、この度は本当にありがとうございました!