多分、いや間違いなく、目の前にいるのは天使か何かなのだろう。
架空の存在である天使の概念などよく知らないが、物語や伝承で語られる慈愛の存在はまさに彼を形容するに相応しい。



彼に初めて出会ったのは数か月前、首都の病院だった。
首都の名門校に在籍する、とある優秀な医学生が時々ハウス教授の代診を務めているという話は仕事仲間から聞いていた。
女学生と勘違いしてもおかしくないその可憐な容貌と確かな診察の腕にファンが多いのだという話も。

その少年は何やら事情があったらしく暫く姿を消していたが、彼が戻る日を気付けば待ち焦がれていた。
ただの噂話だけで僕の心は会った事も無いその白衣の天使への期待が高まっていたのだ。



そして彼が首都へと戻り、前より診察の回数は激減したそうだが、ようやく彼に出会う事が出来た。

一目惚れといえば僕を軽い男だと勘違いするかもしれない。しかし惚れたものは仕方が無い。

あとは噂通りの患者を常に労る優しさ。治療の腕も齢十五歳とは思えないほど質が高い。
しゃっくり病という持病を引っさげて来たにも関わらず彼は怒りも呆れもしなかった。最後まで僕の話を聞いてくれた。
優しい笑顔と優しい声。他の看護師に何やらからかわれた時見せたあどけない表情。


惚れるのにこれ以上理由がいるだろうか?僕の心はすっかりジュード先生に奪われていた。
ジュード先生が病院にいる時間を見計らって、仕事を放り出して通い続けた。
受付の女はまるで健康な僕をいつも訝しげに見ていたが、ジュード先生に会えると考えるとそんな事はどうでも良く思えた。



そんな彼を性的な目で見るようになったのはいつからだったか。思い出せなくても、そんなのは些細な事だ。









その白衣の天使なのだが、驚かないで欲しい、今僕の目の前で眠っている。

30代半ば安月給の独身男性の部屋のベッドはお世辞にも寝心地は良くなく申し訳ないが、僕の部屋にこれ以上快適な場所は無い。
それでも睡眠薬が良く効いているのか、ジュード先生は良く眠っている。薄く開いた唇の隙間から漏れる穏やかな寝息に安心する。


おっと、睡眠薬と聞いて物騒だと思った人は勘違いしないでほしい。背後から睡眠薬を染み込ませた布を先生の口元に押し当てたとかそんな事する訳ないだろう。
僕はただ、近頃研究で忙しそうなジュード先生がよく眠れるように、快眠作用のある薬とか色々な薬を混ぜた特製ドリンクを渡しただけだ。
いつもの可愛らしい笑顔でお礼を言って受け取った先生はその場で特製ドリンクを飲んでくれた。

白く艶めかしい喉がこくりと液体を嚥下するのを眺めていると、ジュード先生の華奢な身体は間も無く崩れ落ちてしまった。
僕は驚いた。即効性のある薬だとは僕自身も全く知らなかったのだ。驚異的な効き目に畏怖すら覚えた。


しかし診察室で倒れたジュード先生を放置しておくわけもいかない。だからといって他の看護師を呼ぶのも躊躇われた。
仮病同然で病院を訪れている僕の存在は病院にとって邪魔で仕方無いはずだった。他の看護師を呼べば最後、僕はブラックリスト入りを果たして病院に入れてもらえなくなるかもしれない。
そんな事になればジュード先生に会う機会を失ってしまう。それが何より恐かった。だから気付けばジュード先生を抱き上げて窓から飛び出していた。








そして今に至る。
僕の部屋へと運ばれたジュード先生は深い眠りに落ちたまま、安物のベッドにしなやかな肢体を預けている。

先に言っておくがこれは誘拐じゃない。日頃の感謝をこめての、愛しい先生を元気にするための僕なりの感謝の形だ。


「さて、どうしようかな」


晒された腕と足首の細さと白さ。ただの医学校の制服だというのに僕はこの制服姿の先生にとてつもなく興奮するようになっていた。
勿体無いがまずはそれを一枚一枚丁寧に剥がしていく。あまり着込んでいないようで、あっという間にジュード先生は一糸纏わない姿になる。
少女のように美しい彼だが、ちゃんと男の証は付いていた。色素沈着の殆ど無い綺麗なジュード先生自身だ。やや小さいがそれが可愛らしい。




触りたいのを抑えて、脱がした制服と下着をきっちりと畳んでソファの上に置く。
ベッドへと戻るとジュード先生の頬は仄かな桜色に染まっていて、先程は無かった変化に僕の顔はにやついた。

媚薬、催淫剤、呼び名は色々あるがその類の薬品を水の中に大量に混ぜ込んでいた。
睡眠薬は即発したのに、もう一つ混ぜたものの効果が現れずに僕は焦っていたが、今頃効果が出てくるとは。



「ぁ、…っ」

頬が染まったと同時につんと勃ち始めた胸の赤い芽。
その頂に指先が触れただけでジュード先生の身体が跳ねてベッドが小さく揺れる。媚薬の効果は上々のようだった。それとも元からここが好きとか?


ジュード先生自身の先端に透明な蜜が滲み始めている。ここを今思いっきり扱いてあげたらどうなるだろう。
胸の飾りにほんの少し触れただけでこんな反応をするのだから、もっと敏感な場所を弄られたら堪らなく善いのだろう。

多分そうするだけで僕の目的は達成してしまう。喜ばしいことではあるけれども、そんな簡単に達成出来てはつまらない。


じっくりじっくりこの愛しい少年を快楽の波へと落とすのだ。二度と抜け出せないまでに、優しく。


「気持ち良くさせてあげるよ、ジュード先生」


それがお疲れのジュード先生に対する僕の日頃の感謝の気持ち。

僕の計画が今本格的に始まろうとしている。窓の外は霊勢が安定する前の首都と同じ、それは綺麗な星空が広がっていた。









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