自由主義者の欄外余白 | ナノ

15論


「旅先で今回の事故に遭ったのだとしても、この状態でいきなり旅に戻るのは些か不安があるだろう。君が落ち着くまで、是非私の研究をサポートしてくれい!」

という訳で、ナナカマド博士から熱いスカウトを受けた一緑先生だよ。
事前に二人で相談していたのだろう、ジョーイさんに驚いた様子は無い。
突然現れた子供を、口実を作った上で家に置いてくれるとか、博士凄いな。

「えっ…と、おれ、じゃまになりませんか。せんもんのちしきとか、ないですよ」
「ならんとも。むしろ人手が増えて実に助かる。それに知識というものは、後から付いてくるものだ。まず最初に必要なのは、知識ではなく、探究心だ」

どうかな、と頼もしい笑みを作る博士に、俺に頷く以外の返事は無かった。
ビブラーバとラルトスもそれで良いかと確認する。二匹共喜んで賛成してくれた。
ならば話は早いと、博士は満足そうに頷いた。

「さて、まだ君達の名前を聞いてなかったな」
「あ、ふつうなまえってあるものですか、やっぱり」

ビブラーバもラルトスも、名前は無いんだよなあ。
付けたい人は付けるみたいな、そういうものだと思っていたのだが。
博士は僅かに動揺した後、こくりと頷いた。そうか、二匹には悪い事をしたなあ。

「なまえ、ほしい?」
「びぃぶ?」
「らるるー♪」

うんうん、そっか。ラルトスは名前があった方が嬉しいようだ。
ビブラーバはいまいちよく解ってないのか、きょとりと首を傾げているが。
この機会だし、他のビブラーバやラルトスと区別する為に名前を付けようか。
名前と言われてパッと浮かぶものは…ううん。そうだなあ。

「んー。じゃあ、ねえ。ビブラーバは…エル、ドラ?ちょっ、とかたい。かなぁ。うん、エルディ。にしよう。で、ラルトスは…あー、んんー、カフカ!ねえ」

どちらも有名な数学者の名前から拝借した。
そのままだと芸が無いかと思って少し捻ったけど…名付けって結構難しいねえ。
どうかなあ、と訊くと二匹共喜んでくれた。よしよし、良かったあ。

「んん…っと、で、おれは…一緑、です。よろしく、ねがぃしま、す」
「ウム。ではイノリ、今日は研究所に行ったら、そのまま安静にしてくれい。他の細かい話は明日するとしよう。沢山話して大変だっただろうしな」

笑みを作って頷いた。そろそろ喉がきつかったので有難い提案だった。
ジョーイさんに二食分の処方箋を頂いて、博士と一緒にお隣の研究所へ向かう。
ポケモンセンターの中ではあまり動かなかったから、体を動かすのに慣れきれず、何度も転び掛けては博士やエルディに助けられるのを繰り返した。
最終的には両側をがっちり挟まれて歩く事になった。いやあ、面目ないです。

研究員のイナバさん、ハマナさんと軽く自己紹介を交わす。
俺を運んでくれたのはイナバさんらしい。俺を目にした途端、大丈夫、怪我は、と真っ先に駆け込まれた。心配性だけど、その分とても優しい人なのだろう。

研究所の奥に案内されると、既に俺の分の布団が用意されていた。
ベッドは間に合わなかったと博士は仰いましたが、充分です。てか用意早いな。
俺を迎える気満々だったイナバさんとハマナさんが張り切った結果だとか。
あれえ、スローライフって此処でも適用されてくの?

「そうだな…暇だろうから、今作っているポケモン図鑑を貸そう。子供達に向けて試作している電子図鑑だ。後で是非意見を聞かせてくれい!」

ぽんっと渡された物は、初代に近いタイプのポケモン図鑑だった。
ま、まじか。こんなレアな物を、軽く投げるみたいに。しかもプロトタイプ。
研究に戻っていった博士の後ろ姿と図鑑を交互に見比べる。…うん、やるかあ。

俺に意見出来る事なんてあるかなあ、と思いつつぱかりと図鑑を開いた。
起動すれば、モノクロの画面が表示される。やはりまだ色は表現出来ないか。
モノクロのシンオウ図鑑っていうのも中々新鮮で面白いけど。

ポケモンの名前がずらっと並んでいて、ボタンを押すと詳細が表示される。
写真の他には名前と分類、それから簡単な説明が並んでいた。
あれ、高さと重さは無いのか。ああ、そういえば分布とかの選択も無かったな。
試作と言っていたし、これからどんどん機能が増えていくのだろう。

後は、ゲーム基準の図鑑か、アニメ基準の図鑑かだよなあ。
捕まえないと情報が表示されないって結構きついけど、最初から全情報開示って、これから知らないポケモンを見に行く若人達にとってどうなんだろう。
うーん、上手く良いとこ取り出来たら良いんだけどなあ。

「びぃぶっ、らぶらー!」
「うん?ああ、ビブラーバはたぶん、のってない…じゃ、ないかなあ」

検索機能も無いのでひとつひとつ探していくが、やはり載っていなかった。
ビブラーバはホウエンのポケモンだからね、しょうがないねえ。
少し残念そうなエルディの頭をよしよしと撫でた。

ついでにラルトスも探してみる。ラルトスは確かあったような…あれ、無い。
というかそもそも、初代の150匹分すら登録されていなかった。
第四世代で追加された進化の情報がすっかり抜けているのだ。
152番以降はプラチナからの追加だし、さすがに全部入りきれてないのかなあ。

というか、今気付いたが現時点で悪タイプと鋼タイプって発見されてるのか?

御三家で有名なエンペルトの項目を表示する。タイプは水タイプのみだった。
今度は鋼タイプで有名なハガネールを探そうとして…載っていなかった。

「……、」

クロバットの項目を探す。無かった。
成程。

「…じょうほう、ふるくせー」
「らるる?」

これ、そもそもまだ発見されてない可能性も有り得るぞ。
これは、…これは……骨が折れそうだ。



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