11論
俺が昨日ひっそり零した夢は、見事ラルトスにキャッチされていたらしい。
簡潔に言うと、島中家族化計画である。
あのまま暖炉の前で眠りこけていた俺は、毛布の中で目を覚ました。
ビブラーバが掛けてくれたのだろう。おはようと一緒にありがとうを伝える。
そのまま朝の日課を済ませて一息付いた瞬間、突然洞穴までテレポートしたのだ。
勿論ラルトスの仕業である。しっかりビブラーバも一緒だったのには安心した。
驚いたもののとりあえず、予定していた挨拶…意訳すると娘さんを僕にください、みたいな、いや娘かどうか解らないけどそんな感じの挨拶をサーナイトにした。
そしてラルトス達の謎会話をしばらく見守っていると、サーナイト達は俺を置いて何処かに消え、戻ってきたと思ったら俺の家に再び皆でテレポート。
怒涛の展開に混乱しつつ視線を上げれば、凄く賑やかな事になっていた。
島中のポケモン達が集結してるんじゃないかという程の密集率。
俺の家の前に集っている、そのどれもが見覚えのある姿で、思わず目を瞬いた。
「えー、あー、皆さんどうもお揃いで?」
「らるっ!!」
「きるるりっ」
「わっわっ、何何何?」
ラルトス達に背を押されて、俺は皆の輪の中へ。
再び始まるポケモン同士の会話に首を傾げていると、一斉に視線が此方へ向いた。
「びぃぶらーっ!!」
「うおわっ、」
初めにビブラーバが突進してくる。慌てて受け止めたら満足そうに去っていった。
次に、俺に着いて来てくれた例のラルトス。此方は俺を見上げながらぴょんぴょん飛び跳ねるので、抱き上げて頭を撫でたら嬉しそうに笑い声を上げた。
そうしたら以前のように他のラルトスやキルリアが押し寄せてきたので、一匹一匹相手をする。以前のように大量に乗っかって来る事はなくて内心ほっとした。
今度は保護者組のサーナイトとエルレイド。しばらく見つめ合った後、何故か頭を撫でられた。とりあえず本来は俺が撫でる側だと思ったので撫で返した。いやあ、俺より大分身長低いし、このくらいの子は生徒を思い出すんだよねえ。
「とにょぉろ」
「うん?」
ラルトス達と戯れていると、何時の間にかご近所さんのニョロトノが傍に居た。
この子達に構うのに夢中になっていたから、すっかり頭から抜け落ちていたけど、そういえば今はポケモン達の謎の集会中だったなあ。
「にょろろっ」
ニョロトノと一緒に居たニョロモ達が、きらきらとした視線を送ってきた。
構ってほしい子供の目によく似たそれが、自然と笑みを誘った。
「うん、おいで」
「にょろ〜♪」
腕を広げれば、次々と飛び込んでくるニョロモ達。
ラルトスよりも大きい上、全身で力一杯跳ねるようにぶつかってくるその衝撃は中々のものだったが、其処は先生の維持で耐える場面だ。
ついでにニョロトノも同じように頭を撫でると、嬉しそうにけろけろ歌った。
何時の間にかそんな調子で、周囲に居たポケモン達は次々構ってとやって来た。
さすがにトロピウスに突進された時は死を覚悟したけどねえ。いやあ、サトシって凄いなあ。毎日ベイリーフに愛の突撃をされてもけろりとしているのだから。
更に言えば、マスキッパが仲直りのつもりなのか、俺をがっしりと抱き締めながら噛んでこようとした時も死ぬかと思った。コジロウって凄いなあ。以下略。
次第に遠慮も無くなって、何度か命の危機を感じながらも皆と遊び倒した。
其処ら中を走り回って、時折飛びついてくる子の頭を撫でて。
どの子とも充分に触れ合った頃には、すっかり日が傾いていた。
疲れ果てた俺達は、揃って草むらに転がって余韻に浸る。
「はああ…あははっ、楽しかったねえ」
「らぁばばー♪」
「にょろとっと〜」
「るるりっ」
服に付いた一枚の葉、太陽で温められた土、花の匂い、疲れた体に風が心地良い。
俺、こんなにはしゃぎ回ったの、生まれて初めてかもしんない。
「らぁる」
ラルトスが俺の手を握った。朝よりもほのかに火照った、小さな手。
そういえば、切っ掛けは君だったんだよねえ、多分。
サーナイト達が総出で皆を集めたのだろう。流石テレポート大家族。
「らるるらー」
「びぃぶらっ」
「うん?」
二匹に促されて身を起こすと、俺の周囲には、沢山のポケモン達が集まっていた。
目が合う度、楽しそうに声を上げて、手を振ったりじゃれたりしてくる。
「――そっか。そっかあ。君ってば本当、良い子だなあ」
ラルトスの頭を撫でると、嬉しそうな返事が返ってくる。
言葉が通じなくても、気持ちは通じる。心は万国共通だ。
その代表のようなポケモンが、この子の一族なのだ。
今日は、俺の歓迎会だった。
皆で家族になるまでの、記念すべき一歩目だった。
ある日、家の裏側にある岩場に、ビブラーバに連れてきてもらった。
島の中でも特に高い場所で、俺はのんびりと景色を眺めていた。
夕日によって赤く染まった空と海、一面の森と、ログハウスに花畑。
彼処にハネッコ達が居る。あっちの方にはサーナイトの住む洞穴があった筈だ。
――ビブラーバが少しずつ、炎を吐くようになってきた。
細い足先からも、時折小さな火を放つのを見る。
暗闇で気付かなかったが、あの日の炎も羽の摩擦によるものではなかったらしい。
火炎放射だとしても、大文字だとしても、はたまた、薪を何度かつついていたから炎のパンチだったのだとしても、少なくとも使えるのは進化してからだ。
何故技マシンを使わないと覚えられない技を使えるのかは、置いておくとして。
要は、進化が近いのだろうと言う事だ。
もうすぐ俺は、島を出る。
折角この世界に来れたのだから、色々見て回らないと勿体無いだろう。
俺をお世話してくれる素敵な仲間も沢山増やしちゃったりして〜、なんて。
「でも……此処が俺の故郷な事に、変わりはないよな」
この島中に、俺の大事な物が沢山出来た。
この島中が、この世界での大切な家族だ。
此処は、本当に綺麗な場所だった。
此処は、本当に温かい場所だった。
「俺、此処に生まれて良かったよ」
此処が、今の俺の帰る場所なんだ。
それが少し誇らしくて、嬉しかった。
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