ネタ帳 | ナノ
七話


――ね、ね、それってぽけもん?たいせんしよーよ!



「……あー」

まさか、前世の夢を見るとは。
雪ちゃんもしかしてちょっとセンチメンタル?

余りにも体がだるくて、白い天井をぼうっと見つめた。

えっと、どうしてこんな所に居るんだっけ。

「『あ』」

聞こえた、たった一文字の音の方へ視線を動かす。
大きな丸い瞳が、私の顔を覗き込んだ。

「みそぎちゃん?」
「『雪!』『雪良かった!』『目が覚めたんだね!』」
「んー……?」

駄目だ状況が解らん。
どうしようもないので黙って禊ちゃんに擦り付かれる。
んむむ。髪がこそばゆいぞ禊ちゃん。

「『今お医者さん呼ぶね』」
「みそぎちゃん、みそぎちゃん、それよりどうしてここにいるんだっけ」
「『覚えてないの?』『そっか』『可哀想に』」

言いつつぴったりと体を密着させる。
いや、そういうのは後でいくらでも出来るから早くぷりーずてるみー。

「『ほら』『僕達何処も悪くないって診断されて家に帰る途中だったでしょ』」
「うーん、うん」
「『それで』『途中で事故に遭って』『雪は頭を打っちゃったんだよ』『軽いものだったらしいけど』」
「……おうう?」

んーと、んーと?
ああ、うん、思い出した。うっすらと。

そう、そう。
車で、帰る途中で。
それで確か、崖から落ちたんだ。

どうして。

そんなの。


あの女の人と男の人が、カーブでアクセルを踏んだから――――


「『あのね雪』『あのね』」
「ん?」
「『雪』『実はね』『お父さんとお母さん』『死んじゃったんだ』」

ぽろり。ぽろり。
禊ちゃんの黒くてまあるい目から、涙が次々零れ落ちていく。

「『折角異常無しって診断してもらって』『家族皆で幸せに暮らしていけると思ったのになあ』」

ぽろぽろぽろぽろ。

「『どうしてこんな事になっちゃったんだろうね』」

次から次へと頬を伝う涙をぼんやり眺めた。
表情は全く悲しんでいないのに、顔はあっという間に涙に濡れていく。

どうしてこんな事に。

そりゃあ。

そりゃあ、死んだ方がましだとでも、思ったんじゃない?

死んだら、楽だもんねえ。解放されるもんねえ。
それより吃驚なのが、私達だけを崖から落とそうとは考えなかったって事だ。

うん、吃驚。

まあ。私から言える事と言えば。

「みそぎちゃんがいればいーやあ」

という事のみで。
ぶっちゃけ元からあの人達に興味無かったし。
私の世界は変わらず、何の支障も無い。

「『本当?』」
「んー?うんもちろん。みそぎちゃんらびんゆー」
「『そっか!』『嬉しいなあ!』『雪大好き!』」

さっきまでの涙は何処へやら、ころっと満面の笑顔になる。
ああ、やっぱり嘘くさい表情だ。

どうでも良いけど、ほっぺすりすりしてる暇があったらナースコールしてほしいなあ。


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