一話
ぱちり。目を瞬いて、狭い視界を見渡す。
あれ、ここ、どこ?
動きにくい体をなんとか動かして起き上がれば、可愛らしいおもちゃが散らばった子供部屋。
自分が動かした体を見下ろせば、なんともまあこの部屋によく似合う幼児体型。
思わずきょとんと首を傾げた。
「『そそぎ――――っ』」
拙い声が扉の奥から聞こえたと思えば、ばたんと勢いよく開く扉。
その向こうには、白い髪の男の子。
きらきらと、だけど何処か暗く澱んだ、無機質な目で私を見る。
「『そそぎ』『そそぎっ』」
同じ単語を繰り返して、ぎゅうっと抱き締められた。
私、そそぎじゃないんだけどなあ。
「『ねえそそぎ』『ぼくだよ』『おにいちゃんだよ』『みそぎおにいちゃんだよ』『ぼくにあいたかった?』『あいたかったよね?』」
あ、そっかあれだ、転生だ。
みそぎなんて名前の男の子は一人しか浮かばない。
凄いや私、皆の憧れのジャンプの世界に来ちゃったよ。
という事はこの少年は、球磨川禊なのかあ。
で、私はその妹と。双子の弟ってあれ嘘じゃなかったっけ、あ、私妹か。そっか、じゃあ嘘だ。
有名人に会ったような気分になって、とりあえず頷いた。
途端にぱあっと輝く表情。目は無機質なんだけど。ちょっと笑うよ球磨川先輩。じゃない、お兄ちゃん?
「『おにいちゃんがあそんであげる』『いっしょにあそぼうそそぎ』」
「あぃ」
上手く発音できないから、変な音を出しつつ抱き締め返した。
ぬくぬく。子供体温。
その辺に落ちてた本を拾い上げると、私を足の間に収めて、目の前に本を広げる。
柔らかい色で彩られていたであろう子供用の絵本は、赤いクレヨンでぐりぐりと上塗りされて、所々はびりびりに破かれていた。
それにしても、私、適応力高い。いえい。
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