ユイ様より:『冒険を共に』
*《グランデス》を結成した数年後設定です
とあるダンジョンの中。
「あー、ここどこ?」
「迷ったなこりゃ」
「……迷子」
「って何でそんなに呑気なの!どうするのよっ!」
探検隊、《グランデス》を始めて早数年。
そりゃ秘密のダンジョンと言われるくらいだ。もちろん何度も迷子になったことも多々ある。
だけど深いく、暗い森での迷子は初体験だ。いつもとは場合が違う。
「一生このままなんて嫌だから!」
「いや、幸いここは森だからな…木の実もたくさんあるぞ?」
「……暮らせる」
「こんなところで暮らすなんて嫌よ。水浴びとか出来ないもんっ!」
「そこかよっ!
…まあ、こんな所に居座っとくのもあれだしな。とにかく歩くか」
「そうね。私たち運だけはあるものね」
「運だけじゃどうにもならないと思うが、出発だな」
そうして3人は薄暗い森の中を適当に歩き始めた。
歩き出して数十分。
周りを見てみると同じ様な木ばかり。ここは森なのだから当たり前といえば当たり前なのだが。
そろそろこの風景にも飽きてきた3人は無言で歩き続けている。3人の空気が異常に重たいせいか、ポケモンは1匹も出て来ないせいでここが未だにどこか分からないからだ。
「あ、ねぇあそこに誰かいるよ!」
重い足取りで歩いていると、アカネが草むらの先に何かを見つけ指を指した。
龍里と世希がアカネが指を指す方を見ると確かに人影が3つあるのが見えた。
「……ん?本当だな。行ってみるか?」
「……あの人たちも迷子かもしれない」
「とにかく、行きましょ!」
アカネの言葉を合図に、3人は60mほど先の草むらに見える人影に向かって少しだけ早足になりながら近寄って行った。
ゴソゴソと何かを探している人影。
…を、茜と龍里と世希は8mくらい離れた草かげに隠れて様子を見ていた。
その様子はさながら不審者に見えなくもない。
「どう?アヤメ、そっちあった?」
「うーん、ないみたい。空は?」
「…こっちもないよ」
「なんでふっかつのタネを探すだけでこんな時間かかっちゃうんだろうね…」
どうやら3人の内かわいらしい女の子はアヤメ、かっこいい黄色い男の子は空というらしい。
まだ名前の分かっていないかわいい系の男の子の名前は何というのだろうか。
「ねえ、どうする龍里?話しかけてみる?」
「そうだな…でも絶対不審者扱いされるだろ」
「でもせっかく見つけた人だよ?話しかけないと私たちこのまま迷子だよ?
それにもうこうやって草かげに隠れて見てる時点で不審者だよ」
「いや、でもなあ。逆に逃げられたらどうするんだ?」
「うっ、確かにそれは辛いよね。なら様子見ってこ「……ねぇ、」」
「「って世希!?」」
軽く言い合いを始めていたアカネと龍里を尻目に世希はザッとその場を立つと、トコトコと3人組に近づいて行った。
「なに?」
「ちょ、ちょっとソラ!初対面の人にそれは失礼だよ!」
「………いや、戦う気、ない。ここ、どこかわかる?」
「…迷子?」
「ちょっとちょっと、世希っ!何やってんの!」
「本当すいません、世希がご迷惑を…」
最初はポカーンと事の成り行きを見ていた龍里は、空くんが怪訝そうな顔をしたのを見て焦って世希の頭をおさえて土下座した。
その勢いで世希の頭が地面にぶつかりゴンッと痛そうな音がした。
「ぐえっ……」
「いや気にしないでください!
それで、あの、道に迷っちゃったんですか?」
「あ、はい。お恥ずかしいことに迷っちゃって…」
その時の空くんの目を見て私たちは思った。
あんな哀れんだ目で見られたのは初めてかもしれないっと。
あれから事情を説明して分かってもらった私たちは、彩夢ちゃん、空くん、藍くん(教えてもらった)を加えて森の出口へと向かっていた。
なんと自分たちの依頼もあるのに私たちを出口まで送ってくれると言ってくれたのだ!
その時、私は天使を見たね。
そんなこんなで出口まで向かう途中に、もう彩夢ちゃんたちと仲良くなることもできた。
特に彩夢ちゃんとは同じトリップしちゃった者同士で話が合うのだ。
「へぇ〜、茜ちゃんがこのチームのリーダーなんだね」
「えへへ…。ていっても名ばかりだけどね」
「そんなことないよ!茜ちゃんすごくリーダーぽいし」
「あー、彩夢そんな褒めたらダメだぞ。そいつはすぐに調子に乗るからな」
「……うんうん」
「ちょっと!何言ってんの龍里、世希!」
「ま、まあまあまあ…僕もアカネはリーダーぽいって思うよっ!ね、ソラ!」
「…いや、どちらかと言えば龍里の方がリーダーぽいでしょ。ていうか…オカン?」
「ちょ、ちょっとソラ!そんな本当のこと言ったらだめだよっ」
いやいや、藍くんもさり気なく酷いこと言ってるよ?
天然さんなのかな?かわいいね。
そんな2人のやり取りを見て、彩夢ちゃんは必死に2人の言ったことをごまかそうとしてくれている。
そして龍里と世希そんな3人を見て笑いをこらえているようだけど、バレバレだぞそこっ。
「あ、なあ。あれふっかつのタネじゃないか?」
やっと笑いが収まった龍里の指差す方を見るとそこには、見た目は普通のタネだがそれは紛れもなくふっかつのタネがたくさん落ちていた。
「ねえ、これおかしくない?さっきまで探しても全然無かったんでしょ?」
「うん…なかったはずなんだけど」
その瞬間いきなり上からドンっと何かが落ちてきた。それと同時に一気にみんなが戦闘態勢に入る。
張り詰める空気の中。砂埃から出てきたのはなんとも可愛らしいパチリス。
「パチリス?」
「パチリスだろ。うん」
「か、かわいい…」
「…そう?」
砂煙からようやく解放されたパチリスはごほごほと咳をして、ようやく目の前にいる私たちに気づいて目を見開いている。
そんなパチリスの足元にはたくさんのふっかつのタネ。
「え?探検隊の人…?」
「あ、うんそうだよ!あ、ねえ、そのふっかつのタネって君のなの?」
「うん。集めたふっかつのタネを巣に持ち帰ろうとしたら滑って落ちちゃったんだ…」
えへへっと恥ずかしそうに頬をかくその姿はとてもかわいらしい。
「なら少し分けてくれないかな?ふっかつのタネがいるんだけどなかなか無くて…」
「これを?別にいいよ。たくさんあるし」
そういいながら尻尾で何個かタネを取って私たちのところに持って来てくれたパチリスくん。
なんていい子なんだろう!
彩夢ちゃんと藍くんはお礼にとオレンのみを代わりにあげていた。
そんな2人を空くんは少し微笑みながら見ている…気がする。
やっぱり信頼しあっているのが見てすぐに分かった。
あれからパチリスと別れた茜、彩夢一行は無事に森の出口に辿り着いていた。
「彩夢ちゃん、空くん、藍くん。短い間だったけど一緒に冒険できてよかった!」
「うんん!こちらこそ!楽しかった」
「また、会えるかな?」
「会えるでしょ。同じ世界にいるんだから」
持ち前の無表情で黙々と語る空くんは相変わらずだ。
もうちょっと藍くんみたいに涙ぐんでくれても良かったのに…。
「じゃあな、彩夢、空、藍。また会えたら一緒に冒険しようぜ」
「…。楽しみにしとく」
「うんっ!うんっ!絶対たくさん冒険しようねっ」
「……じゃあ、そろそろ私たちは旅立ちますかっ」
その茜の声を合図に私たちはそれぞれ握手して、笑いあった。
また。どこかで会える日まで。
どんどん遠くなって行く3人の背中を見えなくなるまで茜、龍里、世希は眺めていた。
「行っちゃったね…」
「……」
「2人共そんなに落ち込むなよ。出会いがあれば別れもあるってもんだ。またあえるさ」
「そうだね、そうだよね!
その時までにはもっと、もっと強くなって3人のをギャフンっと言わせてやろうよ!」
「ははっ!そうだな。そうと決まれば修行しないとなっ」
ダッと駆け出した龍里を私と世希は慌てて追いかけた。
駆けながら、赤く染まった空を見上げてきっとまた会える、そう願った。
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小鳥のさえずりの管理人、ユイ様から相互記念に頂きました。
我が子を素敵に書いてくださりありがとうございます!