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中学最後の夏休みも、ラスト1週間になってしまった。宿題はとっくに終わらせたし、友だちともたくさん遊んで目一杯楽しんだ。でも、唯一幼馴染である鳴とは、あまり会えないでいた。
もちろんその原因は野球。たまに試合は見に行ってたけど、邪魔にならないようにすぐ帰ってメールで感想を送っていた。鳴も鳴で、疲れてるようだったし。そんなこんなで夏休みに入ってからは、数えるくらいしかゆっくり話せてない。

夏休みラスト1週間の日曜日の昼下がり、両親や兄がでかけている間、1人で冷房をガンガンにいれて部屋で漫画を読んでいた時。

ピンポーン

玄関のチャイムが鳴り、宅配便かな?と思い玄関に向かう。扉をあけると、そこにいたのは宅配便のお兄さんではなく、前見たときよりも幾分か日に焼けた、鳴がいた。

『鳴!どうしたの?』
「今日は久々にオフ!」
『そうなんだ。で、どうしたの?』
「宿題みせて!!」

…そんなことだろうと思ったよ。去年も一昨年も見せたのに。…少し鳴を甘やかしすぎたかな。

『いい加減自分でやりなよ』
「あと1週間しかないんだよ!?この量できると思う!?」
『…おもわない』
「でしょ!?だから手伝って!!」

ここまで真っ白な宿題をみたら、せっかく作った先生たちだってさすがに落ち込むんじゃないの?

宿題をもってわたしの部屋に遠慮もなしに入っていく。

「うわ、涼しい!つーかつけすぎじゃね?」
『だって暑いんだもん。寒くなったら毛布かぶる』
「意味ねぇよソレ」

いいんだ。冷房ガンガンにして毛布にくるまるのが好きなんだもん。

「いやまじでさみぃから温度上げるわ」

鳴によって容赦なく温度を上げられたエアコンは、先ほどよりも穏やかに動き出す。それを見た鳴は、さっそくテーブルに向かって宿題に手をつけ始めた。この量は集中してやらないとまじで終わらない。

『飲み物いる?』
「麦茶!ってここにあんじゃん!これでいい」
『それわたしの飲みかけ…』

と言い終わる前に飲み干した鳴。間接キスだとかはもつ今更だ。

そんなことよりとにかく宿題た。2人で手分けして黙々とかたづけていく。
…あ、でもそろそろ鳴の集中が切れそう。

「…あー!!一旦休憩!!」

『まだ30分だよ。もう少しやりなよ』
「無理!つーか気温上げたらまた暑くなってきた!」
『もーなんなの、普段もっと暑いところいるじゃん』
「野球してるときは気になんねぇし!」
『はいはいさすがエース』

鳴の集中力は野球じゃすごいのに殊更勉強になると全くだ。少しはそっちにも使って欲しいものである。

「あ、そうだなまえ、今日祭りあるんだって!」
『あぁ、今日だったっけ』

そういえば地元のお祭りがある。そこそこ規模の大きいもので、夜店が並び、最後は花火があがる。

『花火みたいかも』
「じゃあ行こ!!」
『え、わたしと?』
「ほかにだれがいるのさ!!」
『野球の友だちとか….』
「練習で毎日会ってんのに!?」
『じゃあ行くならこれある程度終わらせないと』

鳴と夏祭りなんて、何年ぶりだろ。小学生のときはわりと一緒にいったけど、中学入ってからはほとんどない。野球の仲間よりもわたしを選んでくれたことに、ちょっとだけ顔がにやける。

そこから鳴は野球のとき並みの集中力で、宿題をあらかた終わらせてしまった。いつもこうなら苦労しないのに。

「なまえいくよ!!」
『うん』

2人でそのまま夏祭り会場へと急ぐ。あたりはもう薄暗くなっていた。会場が近づくと、ガヤガヤと人の声が聞こえてくる。

『鳴なにたべる?』
「ヤキソバ!!」

焼きそばを探しながらも、屋台の匂いにひかれて、途中でたこやきやりんご飴、カキ氷を買っていく。

あと1時間もすれば花火が始まる。場所とりも兼ねてそこで食べることにした。
2人で向かったのは神社の境内のところ。意外とひとが少ないので小さい頃よくここから花火をみた場所だ。

「わ、なつかしい」
『変わってないね』

2人で座り込んで、買ったものを食べていく。

「俺もたこやき食べたい」
『えー?じゃあ焼きそばちょうだい』

「カキ氷」
『はいはい』

鳴はわたしが食べているものを一口(一口か?)ずつかっさらっていく。だからわたしもお返しと鳴のものをもらう。

『鳴の舌青くなってるよ』
「え?…まじだ」

鳴が食べてたのはブルーハワイだ。

「なまえも赤くなってる」
『え?…ほんとだ』

わたしが食べていたのはいちご。

「ハハッ、真っ赤」
『鳴は真っ青』

ひさしぶりに、鳴と向かい合って笑いあった気がする。
ああ、こんな何気ないことも、これからは少なくなっていくのかな。鳴はこれから今以上に野球漬けの生活だ。わたしと過ごす時間も、野球になっていく。…すこし、すこしだけど、さみしい。

「なまえ?…なまえってば!!」
『…あ、ごめんなに?』
「ったく人の話ちゃんと聞きなよ!!」

バーン

「花火、始まるよって言いたかったんだけど、もう始まっちゃった」

『…わ、きれい』

「久しぶりに花火みたかも」

『ね、あれ妖怪なんたら?』
「あーそんなんいたかも」
『あ、あれドラ◯もん』
「ハハッ、逆さまだし」

最後に何連続か分からないくらいの花火がうちあげられ、あたりはまた静かになった。

『きれいだったねー』
「そーだね」

「…なまえ」
『ん?』

「俺、高校行って野球ばっかやるけど。なまえが応援してくんなきゃ、頑張れないから」

ほんと、この幼馴染はこういう時だけ恐ろしく勘が働く。
わたしが、鳴と離れるのがさみしいと思っていたことが筒抜けだ。

『…ずっと応援するよ』
「ほんと?俺の試合全部応援に来るんだよ!?」
『…それは無理』
「なんで!!」
『体力的に』
「体力つけろ!!!エース様の調子崩したらただじゃおかないんだからね!!」
『はいはい』

『鳴、帰ろ』
「うん」

自然に手をつないで、また軽く言い合いをしながら家路につく。鳴の手がわたしのよりもひと回り大きくなっていてびっくりしたけど。

『え!鳴手おっきくない!?』
「俺男だから!こんくらい普通だし!!」

鳴がどんどん男の子になっていく。野球も強くなっていく。どんどん離されていく気がしてしまうけど、鳴がわたしの応援を待っていてくれるから。

鳴、また二人で花火見に来ようね。
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