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今日は12月31日。1年の最後の日、大晦日である。この日は決まって、お隣の成宮家と合同で年越しをする。場所は毎年交互にどちらかの家。今年はわたしの家での開催だ。
ご近所トラブルなどが話題になる中、なぜこんなに仲がいいのか。それは、わたしの両親と成宮家の両親が、高校のときからの親友同士だからだ。
そんな漫画みたいなことが起こっているのだから、現実もそんなに捨てたものじゃない。
うちは兄とわたしの2人だが、成宮家にはお姉ちゃん2人と、わたしと同い年の男の子の3人姉弟。
お姉ちゃんに憧れたわたしは、小さい頃から成宮家のお姉ちゃんを本当の姉のように慕っていた。
お姉ちゃんたちもかわいがってくれた。ただ、わたしの兄とは会うたび軽い口喧嘩をしている。まぁ、仲はいいんだろうけど。
そして、1番下の弟は、去年から強豪野球部に入部し、寮に入った。なかなか会えなくなってしまったが、お正月くらい、帰ってきているだろう。
うちのお母さんと、成宮家のお母さんたちによって作られたたくさんの料理をテーブルに並べて準備していると、玄関が開いた音が聞こえた。そして立て続けにドンドンと足音がする。
バン!!
「なまえ!いる!?!?」
ドアは静かに閉めなさい!!という成宮家母の言葉を無視してわたしに近づいてくるのは、成宮家の末っ子、鳴だ。
『いるよ〜。帰ってきたんだね』
「そう!いまさっき!!」
『おかえり』
そう言うと、鳴はあからさまににやにやしだした。
「さみしかった??」
『べつに』
「かわいくねー!!」
今年の夏、甲子園を大いに盛り上げた投手こそ、この男、成宮鳴だ。結果は準優勝だったものの、そのルックスのよさから、都のプリンスとも言われるほど。
メディアを通してみた鳴は、わたしの知らない鳴だった。だから、こうして帰ってきてくれたのは嬉しいけど、どう接したらいいのか正直分からない。わたしの好きな鳴は、どこかに行ってしまったんだろうか。
時刻はもう23時をまわる。
みんなで食事をしながら、紅白とガキ使を交互に見て、それなりに楽しんでいた。
「なまえ、初詣行こう」
『え?いま?もう少しで年越しだよ?』
「いいから!」
と言って強引にわたしの腕をとり部屋を出て行く。背後で両親たちが、「あら〜若いっていいわね」「鳴くんなら安心だわ!」などと話していたことなど、無視だ。
連れてこられたのは、神社ではなく鳴の部屋。
『鳴?なんか取りに来たの?』
「…なんで、連絡くれなかったの?」
鳴が甲子園出場を決めたときは、嬉しくて、嬉しくて、直接会うことは難しかったから、電話で伝えた。
だけど、甲子園が始まってからは、その目覚ましい活躍に、自分との距離を実感させられた。ただの普通の女子高生のわたしと、甲子園投手の鳴。
『…ごめん』
「ごめんって何?俺のこと応援してくれなかったの?」
「…ちがうよ…」
…違う、違うんだ。これはただの嫉妬だ。
わたししか知らなかった鳴が、他の女の子に知られていくのが、嫌で仕方なかったんだ。わたしのおめでとうとか、がんばってねとか、その言葉が、他の女の子と一緒になってしまうのではと、怖くて仕方なかったんだ
だってわたしは、ずっと。
「違うならなんで?」
『鳴が、活躍するから』
「え?」
『鳴が、活躍して、みんなに、かっこいいって、言われるから。
わたし、鳴のこと、絶対誰よりも知ってるのに。
わたしの応援も、おめでとうも、他の子と一緒にされるの、嫌だった』
「なーんだ、そんなこと?」
鳴が、わたしに近づく。
わたしを、抱き寄せる。
『……っ、鳴?』
「俺、なまえの応援ないと頑張れないんだけど」
『…うそだぁ…』
「だから優勝できなかったんだよ。、なまえのバカ」
『…ひとのせいにしないでよ』
「さすがに盛った。あれは俺のせいでもあるし」
「でも、なまえの応援があるのとないのだと、気持ちが全然違う。なまえにがんばれって言われると、全員三振とれそうな気がするし、おめでとうって言われると、すごく嬉しい」
『…ほんと?』
「ほんと!!てかそんな理由で俺に連絡しなかったワケ!?中学卒業するときも言ったはずなんだけど!」
ううむ、誤解が解けたのはいいけど、鳴が通常運転になってしまった。しかも抱きしめられたまま叫ばれているので、大変うるさい。
『ごめんごめん。ちょっと不安になっちゃっただけ。あと鳴そろそろ離れて?』
「だめ」
「なまえに数ヶ月会ってないんだよ?充電!!」
『…だから耳元で叫ばないで….』
来年も必ず甲子園に行くであろう幼馴染を、今度はしっかり応援しよう。