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3月といってもまだ肌寒い晴天の中、青道高校卒業式は行われた。

野球部のグラウンド近くに集まった三年生たちのところへ、一二年生が集まっていく。

『た、貴子さん〜』
「いやだあ〜」
「卒業しても会いに来てください〜」

わたしと幸子、そして唯は貴子さんにもうべったりで、そのすぐそばで春乃も涙を浮かべていた。

わたしがこの野球部に入るきっかけとなった貴子さん。マネの仕事を厳しく優しく教えてくれた、大好きな先輩。

「…甲子園、応援行くからね」

涙を浮かべた貴子さんの言葉に、強く頷いた。

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そして、3月23日。わたしは甲子園球場にいた。
テレビで何度も見たことのあるこの場所。青道野球部のみんなが、甲子園の地を歩いて開会式に出ている。その表情はどことなく緊張していて思わず口元が緩んだ。

大会5日目。

「本日の第2試合、三塁側には九州地区代表宝明高校。オフに徹底強化してきた自慢の打線で初戦突破を目指します」

初めての、甲子園のベンチ。ここに入りたい選手もたくさんいるのに、わたしが記録員として入ることに何も文句を言わず、むしろ快く送り出してくれたスタンドにいるみんな。
そのことに、感謝と誇りを。

「対する一塁側には激戦区東京地区を制した青道高校。7年ぶりの甲子園、センバツ出場は9年ぶり6回目。名将、榊監督からチームを引き継ぎ指揮官としては2度目の夢舞台。かつて甲子園を湧かせた"魂のエース"片岡鉄心」

7回まで4得点。甲子園だろうと自分たちの野球を見失わない彼らのプレー。3点リードのまま、マウンドには彼が送り出される。

「相手が誰であろうと!」

彼が青道に来てから、どこかチームの雰囲気は変わったように思う。
野球を楽しむこと、向上心、ひたむきに努力すること。

「場所がどこであろうと!」

グラウンドにいる御幸や倉持たちはとても楽しそうに笑っている。それはスタンドにいる青道野球部のみんな、そして応援に来てくれている先輩たちも同じ。

「我々の野球を信じるのみ!」

野球が、この部が、みんなが、好きだなあ。

「ガンガン打たせていくんで、バックのみなさんよろしくお願いします!!」

その中でも、御幸と倉持に対して他の部員とは違う感情を抱いていることに気づいている。
だけど、それはまだ閉まっておこう。

この人たちが、またこの場所に戻ってこれるように。
高校野球を味わい尽くす、その瞬間まで。

"引退"

ずっと遠い存在だと思っていた。だけどそれは、着実にわたしたちに迫ってきている。

その日が来たとき、わたしはどうするのだろう。
輝けるあたらしい日に
導けるように

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