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「タイムが落ちたらもう一回!全員で最初からやり直しだ!!」
本戦出場を決めたあの日から、未だにボールを使った練習をしていない。そしてそれは、今日も同じ。でもそのメニューは、大会中の彼らが誰も予想できないものだった。
「え…今日タイム走!?」
『それオフのメニューじゃない!?』
そう言いながら、わたしたちマネは急いでストップウォッチと記録用紙、バインダーを用意する。わたしたちも、まさかこのメニューをやるとは思っていなかった。
「…最近ボール使ってないよね」
「やっぱりこの前の試合かなあ」
「ですかね…」
わたしたちマネージャーだけでなく、選手たちも困惑の表情を浮かべている。そんな中で、一際目立つ大きな声。
「おいしょ〜!!!」
『栄純…』
「沢村…相変わらず元気だな」
栄純は、やっぱり毎日走ってるだけあってまだまだ元気そうだった。いや、元気にしているだけかもしれないけど、彼のその雰囲気は周りにも伝わっているはず。そのおかげか、他の選手たちもやる気を取り戻したようだった。
いつまで続くのかと思われたタイム走も、終わってみればまだまだ日が暮れる前。いつも練習が終わる時間よりもかなり早い時間だった。
選手たちの方からは麻生やゾノの声が聞こえてくる。練習は乗り切ったものの、やっぱり大会中のこのメニューには納得がいかなかったのだろう。
でも、次のゾノの一声に、空気は一変する。
「それに自主練ではボール使うなと言われとらん!」
それに呼応するように選手たちは自主練へと向かう。こういうときのゾノの一言は本当にみんなを動かす。誰よりもバットを振っているからこそだろう。
「キャプテンらしいこと先に言われちまったなヒャハハ」
『…倉持楽しそうだね』
倉持がおもしろがって御幸にそう言った。倉持…ほんとこういうところだよ。
「…ま、俺じゃなくてもいいんじゃねーの?監督のことをちゃんと理解してるやつがいれば…」
「あ?なんだそれ?」
『てか御幸早く行きなよ。あの二人すごい待ってるよ』
「おー…いってくるわ」
『いってらっしゃーい』
「ヒャハハ、アイツらスゲーやる気」
『倉持は?』
「バッティングしてくるわ」
『球出す?』
「オウ」
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そして、9月26日。
『貴子さん〜!!』
今日は貴子さんが練習に参加する。なぜなら…。
「引退試合がまさか今日になると思いませんでした」
今日は三年生を送る引退試合。例年シーズンが終わってから行われるのだが、今年は大会中になったのだ。
「ふふ、結城くんと伊佐敷くん中心にすごく気合入ってるから油断しないようにね」
「…ですね」
気ィ抜いたらフルボッコという恐ろしい言葉が聞こえてくる。
「今日はなまえがベンチ?」
『あ、ハイ!』
「仕事ぶり見てるからね」
爽やかな笑顔でそう言われると、なんともプレッシャーが…。
「なまえがんばれ〜」
「なまえ先輩、ファイトです!」
よし、わたしも貴子さんに負けないようにがんばろう。