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9月4日。
新学期が始まって間もなく、秋季大会一次予選抽選が行われた。24ブロックに分かれトーナメントを行い、各ブロック上位2校が本大会に進出できる。
その本大会で優勝したチームは、センバツへの出場権を得ることができるのだ。
今日、その大事な抽選へキャプテンの御幸とわたしは行ってきた。
その結果…
『…やっぱ御幸クジ運あるわ』
「普通に戦えば大丈夫そうだね」
見事に目ぼしい強豪校のいないブロックになっていた。
「御幸となんかあった?」
幸子がニヤニヤしながら聞いてくるが、特に何もない。てか何にも起きないよ。
「いや倉持がおもしろくて」
『なんで倉持?』
『それよりも、栄純はまだ別メニュー?」
「あれから一週間くらい経つけどほとんど走ってばっかりだよね」
栄純はイップス状態になり、監督からボールを触らない別メニューを指示されていた。
わたしたちマネも(特に春乃は)気にかけて見ていた。いつもより元気はないけど、メニューだけは淡々とこなしている。
「沢村!今日から打撃と守備練習にも参加しろ!」
そんな栄純は、今日の練習前に監督がそう指示し、ようやくみんなとの練習に合流した。
ただしポジションは外野。でもその姿は、
『…ハハ』
しっかりと、前に進んでいる。
そして、9月12日。
秋季大会一次予選一回戦が行われた。相手は東東京の豊崎。
マネであるわたしは、この試合から公式戦では初めて記録員として少し緊張しながらベンチに入った。
初回から先発の降谷くんが攻守で活躍し、6-0で勝利した。しかし打線は予想よりも繋がらず、コールド勝ちとはならなかった。
「なあ今日の数IIの課題いつまでだっけ?」
『来週の水曜』
「まだ余裕あるな」
『その範囲で小テストするって言ってたじゃん』
「げ」「げ」
それから数日後の練習の休憩中、そんな話を御幸としていたら、後ろから同じような反応が返ってきた。
「なまえそれマジ?」
『どうせ倉持も聞いてなかったんでしょ』
「ヤベェ…」
『とりあえず課題やったら少しはできるでしょ』
「今学期入ってから数IIほぼ寝てたからわかんねェ」
「俺は寝てないけどたぶんわかんねェなあ」
『それやってること違っても結局一緒だから』
今回もまたコイツらの課題手伝うことになりそうだ…。
「アイツら…」
近くにいたゾノがなにかを見て呟いた。その視線の先を見ると、ものすごい勢いで走る降谷くんと栄純の姿が。
「ンだよ。元気じゃねーか沢村の奴…」
『まだ練習始まったばっかなのに…』
いつもと調子は違っても、降谷くんには負けたくないんだろうな。
「アイツの心配してる場合じゃねーな。俺らは少しでも点とってやんねーと…」
「フン…ケツに火はとっくについとんのや!」
そう言った倉持とゾノ、静かにあの二人を見ている御幸が、とてもとても頼もしく見えた。
そしてこのあと、栄純はようやくブルペンでの練習を始める。