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稲実の試合を見て学校に戻ってきてからも、選手のみんなは練習に明け暮れていた。
わたしたちマネージャーは、今日の試合の片付けに奔走している。
「あ、貴子〜」
あ、吹奏楽部の先輩だ。野球応援でも、中心になってくれている先輩で、貴子さんと仲が良いらしい。
「これ、吹奏楽部から」
そう言って渡されたのは、千羽鶴。これまでもいろんな人にもらい、わたしたちも作った。
青道野球部が応援されている証。これだけたくさんの人に、応援されている。
「ありがとう」
『ありがとうございます!』
あと、ひとつなんだ。全力で応援して、その先の景色を、見てみたい。
夕食のあと、食堂で全体ミーティングが行われ、ようやく解散となった。
貴子さんが先ほどもらった千羽鶴をキャプテンたちに渡している。
「これ吹奏楽のみんなからだって!」
「おお!千羽鶴じゃんなんかスゲェ増えてきたな」
「じゃあ私達も上がるね」
お疲れ様です、と言って去ろうとすれば、
「あ!マネージャー!…あと2日よろしくな…俺達も死ぬ気で戦うからよ!」
「あと2日じゃないぞ 純!俺たちにはその先が…」
「うるせぇな!とりあえずだよ!」
そのやりとりに、思わずみんなで笑ってしまう。私たちにできることは少ししかない。
けど、こうやって言われると、その少ししかできないことでも、全力でやる気になるんだ。
『純さん!かっこいいです!!』
「伊佐敷先輩マジイケメン!!」
幸子と一緒になって純さんをリスペクトすれば、
「うるせぇ!!!!」
と吠えられた。…褒めてるのに。
『…あ、そういえば貴子さん、小湊先輩…』
「そう、ちょっと聞いてみたんだけどね、なんともないって」
『…そうですか…』
本人がそう言ってるなら大丈夫だとは思うけど…一応、あとで倉持にそれとなく確認しておこう。
その後マネージャーみんなで着替えをして、帰路につくところだったけど、やっぱり小湊先輩のことが気になったので倉持を探すために、先に帰ってもらった。
成宮くんの一件があって少しドキドキするけど、それとこれとは別の話だ。しっかりしろわたし!
キョロキョロしながら探せば、自販機のところに1人ポツンといた倉持。…どうしたんだろ、いつもと雰囲気が、ちがう。
話しかけようかと立ちすくんでいたら、倉持がこちらを振り返ってしまった。
「…なんだ、なまえか」
『…倉持どうしたの?』
「なんでも、ねーよ…」
『そっか…』
…あぁ、悟ってしまった。
倉持がここまで、落ち込むのは、小湊先輩のことぐらいだろうから。
2人で話を終えたなら、わたしからは何も言えない。
『ん、じゃあわたし上がるね』
「おう」
わたしにできるのは、ここまでだ。あとは、選手たちが決めること。
ただ、明日の練習でどこか様子がおかしければ、動かなければ。
(選手と、マネージャーの距離)